HODGE'S PARROT

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メンデルスゾーン《エリア》



2009年はフェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn、1809 - 1847)の生誕200周年にあたる。ということで、普段なかなか聴きとおせないメンデルスゾーンの大作、《エリア/Elias》Op.70 を聴いた。旧約聖書の『列王記』に登場するユダヤ人の預言者エリヤ(英語表記だと Elijah/イライジャ)を題材にしたオラトリオだ。
演奏は、ジェイムズ・コンロン指揮&ケルン・ ギュルツェニッヒ・フィルハーモニー管弦楽団他。

Elias

Elias

  • アーティスト: Andreas Schmidt,Felix Mendelssohn,James Conlon,Cornelia Kallisch,Cologne Gürzenich Orchestra,Andrea Rost,Deon van der Walt,Düsseldorf Musikverein Chorus
  • 出版社/メーカー: EMI Classics
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: CD
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約2時間を要するこのオラトリオのストーリーは、

第1部(Erster Teil)と第2部(Zweiter Teil)に分かれている。第1部では、イスラエルバアル信仰が広まったことより神エホバの怒りを招き、エリヤに神の言葉が臨みイスラエルの地から雨が途絶える場面から始まり、エリヤがバアルの預言者たちとの対決に打ち勝つところまでが描かれている(列王記上(列上)第17〜18章)。
第2部では、バアルの預言者を滅ぼしたことによりイスラエルの王アハブに命を狙われることとなったエリヤがイスラエルから逃げる場面から、後継者エリシャの目の前で火の馬車により天に上げられるところまでが描かれ(列上第19〜22章・列下第1〜2章)、終末部では救世主の出現に関する預言が歌われて曲が終わる。



エリヤ (メンデルスゾーン) [ウィキペディア]

つまり、「善である預言者エリヤが、バアル(Baal)の預言者という悪の力と、人々の魂のために戦い、ついには火の車に乗って天に昇る」*1という非常にドラマティックでスペクタクルな内容を持っているのだ。まさに「少年小説と同様、手に汗握る危険に満ちている」(チェスタトン)。実際に、迫力に満ちた音楽で、とても聴き応えがある。もしこれがオラトリオじゃなくてオペラだったら……。

アハブはイスラエルのすべての人々に使いを送り、預言者たちをカルメル山に集めた。エリアはすべての民に近づいて言った。「あなたたちは、いつでもどっちつかずに迷っているのか。もし主が神であるなら、主に従え。もしバアルが神であるなら、バアルに従え。」


民はひと言も答えなかった。エリアは更に民に向かって言った。「わたしはただ一人、主の預言者として残った。バアルの預言者は四百五十人もいる。我々に二頭の雄牛を用意してもらいたい。彼らに一頭の雄牛を選ばせて、裂いて薪の上に載せ、火をつけずにおかせなさい。わたしも一頭の雄牛を同じようにして、薪の上に載せ、火をつけずにおく。そこであなたたちはあなたたちの神の名を呼び、わたしは主の御名を呼ぶことにしよう。火をもって答える神こそ神であるはずだ。」
民は皆、「それがいい」と答えた。




『列王記 上』 18.20-24(新共同訳『聖書』より)


ハーバート・クッファーバーグ著『三代のユダヤ人 メンデルスゾーン家の人々』によれば、メンデルスゾーンのもう一つのオラトリオ『聖パウロ』はヨハン・セバスティアン・バッハの受難曲から形式・様式を引き継いでいたが、『エリア』はそれとは全く異なった作品だという。フェリナンド・ヒラーは、フェリックス・メンデルスゾーンが『エリア』を作曲する由来について回想している。

「ある夜、私は聖書を読みふけっているフェリックスの姿を認めた。”聞きたまえ”と彼はいい、優しい、しかし少々興奮した声で聖書を読んでくれた。それは旧約聖書の『列王記』上からの一節で、こんな言葉で始まっていた。”見よ、主が通り過ぎられた”。”オラトリオにぴったりの言葉だと思わないか?”と彼はいった。──そして実際、それは『エリア』に取り入れられた」。


ヒラーはその部分はメンデルスゾーンが書いた合唱曲では最も力強い曲のひとつになっていると付け加えている。



ハーバート・クッファーバーグ『三代のユダヤ人 メンデルスゾーン家の人々』(横溝亮一 訳、東京創元社) p.313-314


フレデリック・レイトン(Frederic Leighton、1830 - 1896)*2 による『Elijah in the Wilderness/荒野のイライジャ』

捧げ物をささげる時刻に、預言者エリアは近くに来て言った。「アブラハム、イサク、イスラエルの神、主よ、あなたがイスラエルにおいて神であられること、またわたしがあなたの僕であって、これらすべてのことをあなたの御言葉によって行われたことが、今日明らかになりますように。わたしに答えてください。主よ、わたしに答えてください。そうすればこの民は、主よ、あなたが神であり、彼らの心を元に返したのは、あなたであることを知るでしょう。」


すると、主の火が降って、焼け尽くす捧げ物と薪、石、塵を焼き、溝にあった水をもなめ尽くした。これを見たすべての民はひれ伏し、「主こそ神です。主こそ神です」と言った。
エリアは、「バアルの預言者どもを捕らえよ。一人も逃がしてはならない」と民に命じた。民が彼らを捕らえると、エリアは彼らをキション川に連れて行って殺した。



『列王記 上』 18.36-40

Mendelssohn: Elijah

Mendelssohn: Elijah



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