HODGE'S PARROT

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『キャンディマン』 Candyman /1992/アメリカ 監督バーナード・ローズ

上空から見下ろす都市の形態は無表情な図形の集積。まるで何かの配置図、あるいは色彩を失ったモンドリアンの絵画のよう。そんな幾何学的な、あるいは記号でしかない都市風景を映しながら、フィリップ・グラスの音楽が響き渡る。シンプルかつノスタルジックなミニマル・ミュージック。この音楽を背景に、ファンタジックなドラマが展開されるため、僕にとってこの映画の主役はどうしたって「音楽」になってしまう。ミニマル特有のフラットな音響の繰り返しは、奇妙なモワレ効果をいつまでも頭の中に残響させ、視覚さえも揺らめかすから。

原作はクライヴ・バーカー。血の本シリーズ『マドンナ』に入っている「禁じられた場所」。ある都市伝説に魅せられた女性が、その伝説の殺人鬼キャンディマンと遭遇し不思議な交感を体験するというもの。映画では単に怪物が登場するだけでなく、マーガレット・ミラー流のサイコロジカルな解釈も可能にする余地を残している。つまり、ヒロインの抑圧された、信じたくない認めたくない事実が怪物を生んだ──文字通り産んだ──のではないか、ということ。
そのため、飛び散る血の量に比し、全体としてはなかなか繊細に処理されている。何よりヒロインのヘレンもキャンディマンも、この世の居場所を喪失してしまった者の悲しみを帯びている。「禁じられた場所」はすなわち「これよりさき怪物領域」ということ、ヘレンはそこに足を踏み入れてしまった。彼女の本当の「恐怖」はなんだったのだろう。