やっと時間が取れて、ネットで本の情報を得て、それを「はてなブックマーク」のコレクションに加えようとしていた──もちろんカヴァー中心のセレクト、もちろん(見ればわかるように)ゲイ関連の本だ。
Like People in History http://www.amazon.com/dp/0140245251/ |
で、気づいた。Amazon (.jp、.com 他)にあって「はてな検索 書籍/映画/音楽」で表示されない本があることを。Felice Picano(フェリス・ピカーノ)がそうだった。「はてな」は、もしかしてゲイ関連の書籍を意図的にブロックしているのではないか、あるいは、わざと検索しずらいように設定しているのではないか。そんな疑念が沸きあがった。
というのも、先ほど、Felice Picano で何度も何度も何度も……検索した。でも、あの犬の写真が出てくるばかりで、ぜんぜんヒットしなかった。アタマにきて(オレは気が短いんだ)、聴いていたオリヴィエ・メシアンの《アーメンの幻影》(ピアノは高橋悠治&ピーター・ゼルキン)のリズムに合わせてクリックしまくったらエラーを起こしやがった。
だから、そんな Amazon にあって「はてな検索」でヒットしなかった商品のコレクションを「ダイアリー」の方でやろうと思う──もういいや、あんなブックマークのコレクションは(オレは気が短いんだ)。言っておくが僕はアフィリエイトは一切やっていない。だから、本やCDの購入に際して「はてな」経由だろうと何だろうと僕には一向に関係ない。「はてな」のコレクションを利用しているのは、ブックマークしたものの検索がしやすかったからだ──後で他の商品と一緒に注文できるし、同時に、それらの本の紹介にもなるし。言いたいのは、星印に色なんかをつける前に「情報収集」に適したサービスを充実させてほしいことだ──気が短い人間のために。
それで、フェリス・ピカーノ(Felice Picano、b.1944 -)の本を。カヴァーのイメージ中心でセレクトしているので、国内・米国 Amazon だけではなく仏・独からもチョイスしておきたい。
Plaisirs gay http://www.amazon.fr/dp/2891170458/ |
4.002 個々の言葉がいかに、また何を意味するのかを全く知らないでも、あらゆる意義を表現できるような言語を構成する能力が、人間には具わっている。これは、個々の音声がどうして発せられるかを知らずに我々が話しているのと同様である。
日常言語は人間という有機体の一部であって、これに劣らず複雑である。
日常言語から言語の論理を直接に読み取ることは人間には不可能である。
言語は思想に変装を施す。すなわち衣装の表面的な形式から、装われた思想の形式へ推論することはできない。衣装の外形は肉体のかたちを認識させるのとは全く異なる目的に合わせて整えられているからである。
ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(黒田亘 編『ウィトゲンシュタイン・セレクション』より、平凡社ライブラリー)*1 p81-82
A House on the Ocean, a House on the Bay http://www.amazon.com/dp/1560234407/ |
この男は痛みを感じているという私の確信が、2×2=4 であるという確信よりも確実性において劣るであろうか。──それでは最初のも数学的な確かさだというのか。──「数学的な確かさ」は心理学的な概念ではない。確かさの種類は言語ゲームの種類である。
『哲学探究』より p.284
Der Köder http://www.amazon.de/dp/3861873133/ |
私が本当に言いたいのは、言語ゲームというものは人が何かを信頼する場合にのみ可能である、ということだ(私は「何かを信頼することができる」とは言わなかった)。
『確実性の問題』より p.291-292
Diese eine Freundschaft http://www.amazon.co.jp/dp/3426604779/ |
「何よりもまず、この代入によって本当にこの表現が得られる、ということが明らかでなければならない」と私が言う場合には──「私はそれを疑いえないものとして承認しなければならない」、と言うことであろう──だがその場合には、確かな根拠がなければならない。例えば、同じ代入は、必ずと言ってよいほど同じ結果を生じる、というような。まさしくここに、見渡せることの本質があるとは言えないか。
『数学の基礎』より p.128
Onyx http://www.amazon.co.uk/dp/1555836402/ |
6.4312 人間の魂の時間的な不死、すなわち死後における魂の永遠の存続には、何の保証もないばかりではない。何よりもこの仮定は、およそ人がこれに託している望みを、いささかも満たし得ないのである。そもそも私が永遠に生き続けることによって、何の謎が解決されるというのか。この永遠の生存は、現在の生と全く同様に、謎に満ちてはいないか。時間・空間の中の生に絡む謎の解決は、時空の外にあるのである。
(解決されべき問題は、自然科学のそれではないのだ。)
『論理哲学論考』より p.116
Men Who Loved Me http://www.amazon.co.uk/dp/1560234423/ |
こう言えるかもしれない。君の見ているものは、たしかに、きらめく蜃気楼にも似たものである。しかし地の側面からそれを見れば固い物体がみえるはずだ。それは最初の方向から見た場合だけ、物体的な基体なしのきらめきのようにみえるのだ、と。
『数学の基礎』より p.147
Fred In Love http://www.amazon.co.jp/dp/0299209105/ |
人はしばしば、動物が話をしないのは彼らに精神的な能力が欠けているからだ、と言う。これは「彼らは考えない、故に話さない」という意味である。じつはそうではなく、動物は話さない、ただそれだけである。あるいはむしろ、動物たちは言語を使わない──ただし、もっとも原始的な言語形態を度外視するならば。──命令し、問いかけ、物語り、雑談することは、歩いたり、食べたり、飲んだり、遊んだりすることと同様に、我々人間にかかわる自然誌の一部である。
『哲学探究』より p.175-176
フェリス・ピカーノは『SeaHorse Press』や『The Gay Presses of New York』を創設、さらに『The Advocate』を始めとするゲイ雑誌の編集&ライターを務めた。また、エドマンド・ホワイト/Edmund White、アンドリュー・ホラーラン/Andrew Holleran、Robert Ferro、Michael Grumley、Christopher Cox、George Whitmore ら7人のゲイの作家たち*2と『The Violet Quill』をニューヨークで結成している*3。デビュー作『Smart as the Devil』は1975年度のアーネスト・ヘミングウェイ賞の最終選考に残った。
ピカーノの本としては、チャールズ・シルヴァースタイン博士(Charles Silverstein、b.1935 -)との共著『ザ・ニュー・ジョイ・オブ・ゲイ・セックス The New Joy of Gay Sex』(白夜書房)と*4、サスペンス小説『透きとおった部屋 Eyes』(ハヤカワ文庫)*5が邦訳されている。『ジョイ・オブ・セックス』もそうだが、『透きとおった部屋』も意外なくらい詩的で繊細な文章が魅力的だった。
「ぼくはシャルダンのことはよく知らない。いや、ほんとに美術史となるとなんにも知らないんだ。でも彼はフープ・スカートなんかをつけて踊っている女たちを描かなかったかね?」
「それはフラゴナールよ。シャルダンの絵はもっと近代的なの。静物がほとんど……壺と皿、食べかけのストローベリー・ショートケーキ、いろいろな物がいっぱい載った柵……それからもちろん肖像画もね。そしてほとんどが若い人ばかり。トランプのカードで家をつくって、最後のカードを屋根にのせようとしている男の子を描いたすばらしい絵があるわ。画面の感じがとても繊細で、あぶなっかしくって、その男の子の考えていることが手にとるようにわかるくらいなの……このとってもむつかしいことをしている彼のよろこびや、カードに重みがかかりすぎて、その家が今にも崩れてしまうのじゃないかと心配しているのもね……」
フェリース・ピカーノ『透きとおった部屋』(小倉多加志 訳、ハヤカワ文庫 NV 198) p.183
そうそう、英文学というか古典文学の学位を持っている人が僕の家に置いていったペーパーバックもフェリス・ピカーノの小説だった。『THE LURE』──エピグラフにウィリアム・ブレイク──"For the Eye altering all...."──が引用されている。
"You seem real impressed by these guys, Lure. You ought to hear yourself. This One's a boy genius. That one's an old genius. This one's a world-famous model. That one sold a million records in a month. Even this conspiracy is a good idea:perverts running the country."
Felice Picano " The Lure" (HARD CANDY BOOKS)p.217
The Lure http://www.amazon.co.jp/dp/1602820767/ |
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*1:以下の引用も同書から。
*2:彼らのうちの四人が1988年から1990年までにエイズで亡くなっている。その「事実」を知って、そしてこのことを書きながら、あの薄汚い差別マンガ家の問題がますますはっきりとくっきりと浮かび上がってきた──同時に、モーリス・デュリュフレの《レクイエム》が鳴り響いてきた。後で書く。絶対に。絶対に赦さない。絶対にだ。
*3: David Bergman 編による『The Violet Quill Reader: The Emergence of Gay Writing After Stonewall』が St Martins Pr より。→ http://www.amazon.com/dp/031211091X
同『The Violet Hour: The Violet Quill and the Making of Gay Culture』が Columbia University Press より。→ こちらは Google の「ブック検索で」
*4:
*5: