チマブエ、画壇に不抜の地位を保とうと思ったが、今やジョットの呼声かまびすし。よって前者の名声はかすむ。
と、ダンテも『神曲』の「煉獄篇」第11歌で触れているジョット・ディ・ボンドーネ(Giotto di Bondone、c. 1267 - 1337)とその影響にあった画家たちの作品展──損保ジャパン東郷青児美術館で開催されている「ジョットとその遺産展」に行ってきた。
貴重な作品──絵画というより板絵やフレスコ画、祭壇画が展示されており、高層ビルの42階にある美術館であることを忘れさせてくれる素晴らしい展覧会だった*1。
↓ は美術館の入口付近の窓から撮った新宿の様子。
この高層ビルの窓とは対照的なステンドグラス作品《殉教助祭聖人》がとくに印象的だった。照明を落としたコーナーにあって、美しい光が目に入ってくる。このなんとも言えない感じ……グッとくる。またフレスコ画の多くは絵具が剥落していて、その「古さ」がまた得難い雰囲気を醸し出している。
今回の展覧会では、スクロヴェーニ礼拝堂/Cappella degli Scrovegni にある壁画の写真パネルがあって、これがとてもよかった。画集にもよく掲載されているジョットの著名な作品──《死せるキリストへの哀歌》や《洗礼》、《ユダの接吻》などが、ある程度の大きさで見ることができるからだ。迫力が違う。例えば下の《死せるキリストへの哀歌》なんか、嘆き悲しんでいる天使たちの表情に本当に心が動かされた──とくに上側の左から三番目の天使の表情を見て欲しい。
giotto final
さらに、《憤怒》と題された女性が胸をはだけている作品や《最後の審判》の恐ろしさも、強烈であった。ジョットの作品からは尋常でないドラマが伝わってくる。《擬似大理石装飾》といった普段は気にもとめない「装飾」の素晴らしさにも気付かせてくれた。
宗教画や「実用的な」祭壇は、教会で見てこそ、という人もいるだろうけど、美術展ではまた異なったフォーカスがされており、それによって新たな感動を呼びさましてくれる。
The Magnificent Giotto
私がいま正眼に見た光景を、まさやかに捉えたいと願うひとは、須らく心に描け、──して、私の語る間、その心象を巌のごとくにもしかと保て、──十五の星を。その星々は、さまざまの方角に位置し、げに大いなる光度をもて天を活かすものから、空気の密度いかに濃くとも、これに打ち勝つ。
また心に描け、われらが久方の天津ふところに、夜も昼も満ち足るものから、轅めぐるも隠るることなき北斗七星を。
ダンテ『神曲』より「天国篇」第13歌 p.646
ジョットとスクロヴェーニ礼拝堂 (Shotor Museum)
- 作者: 渡辺晋輔
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