クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるアルバン・ベルク作品集を聴いている。ウィーンの写真を整理するにはもってこいの音楽だ。
- アーティスト: バンス(ジュリアーヌ),ベルク,アバド(クラウディオ),ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1996/07/25
- メディア: CD
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このカヴァーはエゴン・シーレ/Egon Schiele 作であるが、個人的には、シーレの描く──自画像以外の──絵よりも、シーレ本人に興味があったりする。
→ Egon Schiele [Wikimedia Commons]
YouTube にはシーレ関連の印象的な映像がいくつもある。が、マチュー・カリエール/ Mathieu Carrière がシーレに扮したヘルベルト・フェーゼリー/Herbert Vesely 監督の映画*1を含め、なんとなく「成人向け」っぽいのが多いので、以下の映像だけを貼っておきたい。音楽と自画像の映像がやけに合っている詩的なものだ。
Egon Schiele self portrait
同時代人の告げるこの早熟の画家とは、上品な身ぶりを絶やさない一人の優雅な若者である。端正な美男子で、長い髪や髭や汚い衣服といった芸術家風の装身具をついぞ身につけていなかった。彼は時代の「反抗者」として、異様な服を着こみ、狂人のように語る権利をもっていたはずである。
しかし、みずから、ことわざにいうとおり、「まことの革命家はジェスイットのごとく」をあらわして、もっとも貧しいときでもほどのよい身なりで往来し、だれとでも同じ語彙で語っていた。要するに、彼はいったい、何をしたいのか、何を望んでいるのか、すぐにはわからないたぐいの男であった。
- 作者: Esther Selsdon,Jeanette Zwingerberger
- 出版社/メーカー: Grange Books
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色と線とが私の感覚だ。それは願う。草原が花を願うように、そして恋人を願うように願うのだ。
絵よ、あれかし! 絵よ、あれかし!
本能はたよりにならない。思考のいきつくところは、つねに不正だ。
代わりにエゴン・シーレの絵を示すとしよう。自分の新しい道にそって、つまりはこの画家の心にそって歩くとしよう。見たまえ、彼の方からやってくる。多くの人々は驚いた。予期していなかったからだ。眼がふるえる。眼光は、着想に先立って垂れていたヴェールを射さすだろう。憧れていた風景だ。内的な光の中に、さしひらく風景だ。任意にポーズをとった人々の表層が取りはらわれて、その内面が外部に押し出してくるのを私は感じる。高々とした鼻と耳から血があふれ出るかのようだ。
新しく生まれた動物と植物が、ひからびたシンボルからとび立って生存の只中へとびこんできた。その衣服に触れるなら、指先を伝って諧音生まれる。かつてない行為を告げる裏切りの足跡。
アルベルト・パリス・ギュスタースロー*2「エゴン・シーレ」(池内紀 訳、国書刊行会 『ウィーン 聖なる春』) p.328-329
もう一人、オーストリアの画家で興味を惹くのがリヒャルト・ゲルストル/Richard Gerstl だ。やはり YouTube で探してみたがシーレにようにはヒットしなかった。が、アルノルト・シェーンベルク絡みで面白いものがあった。ゲルストルの自殺の原因ではないかとされているマティルデ・シェーンベルクを描いているものだ。
Arnold Schoenberg's Summer Vacation
ゲルストル(1883-1908)もシーレと一緒に、ウィーン・アカデミーのグリーペンケルル教授の教室に学んだが、生まれつき音楽好きの彼はマーラーを尊敬し、シェーンベルクの友であり彼に絵の手ほどきをし、音楽批評を志したときもあった。ムンクに感化され、とくに1906年のウィーン・ミートケ画廊のゴッホ展で四十五点の作品を眼にしてからは、もっとも激越な反クリムトの立場をとり、せっかく個展の決まっていたミートケ画廊の、すべてのクリムトの絵を撤去せよと要求した。個展は解約、ゲルストルは孤立し、誰からも相手にされなくなり、自殺した。1908年11月のことである。
(中略)
〈庭園のヌード〉に至ると、男性ヌードは包囲している観衆たちと見境もつかない。彼は衆人環視の中で着衣剥奪を演じている。ゲルストルはこの絵を描き終えて、死んだのだろう。〈庭園のヌード〉を眼の前にすると、彼の〈笑う自画像〉の哄笑が聞こえてくる。観客たちのどよめき、身をくねらせる笑いに和して、ゲルストルその人の内側から、重力を解き放たれた高らかな笑いが噴き上げてくるのだ。胸中の苦悶を推測できはすまい。絵画は表現でありつつ、仮面でもある。
- 作者: 坂崎乙郎
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*1:Egon Schiele - Exzesse(1981)