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リアリスト、キッシンジャー「Victory in Iraq no longer possible」と発言




ヘンリー・キッシンジャー国務長官は、ブッシュ政権イラク戦略について、「イラクでの勝利はもはや不可能」(”Victory in Iraq no longer possible”)とBBCのインタビューで語った。同時に、駐留米軍の即時撤退はイラクの「劇的崩壊」(”disastrous consequences”)をもたらしかねないと警告することも忘れなかった。これはベトナム戦争を踏まえての発言だろう。

「イラクでの勝利はもはや不可能」と キッシンジャー氏 [CNN]

キッシンジャー氏はニクソン、フォード両政権下で大統領補佐官国務長官を務めた人物。泥沼化したベトナム戦争終結へ導いたとして、73年にノーベル平和賞を受賞した。最近はイラク政策をめぐってブッシュ政権からも助言を求められ、昨年8月には米紙上に「武装勢力に勝利することが、唯一の意味ある出口戦略だ」との論説を発表していた。


しかし同氏はBBCの番組で、「イラク政府が全土を掌握し、内戦や宗派間対立を制圧できる状態になることを軍事的勝利と呼ぶならば、勝利が可能とは思えない」と言明。これに代わる「望ましい結果」を、イラクの周辺国や国連常任理事国などによる国際的な枠組みの下で定義し直すべきだと主張した。さらに、「イラクが民族ごとに分かれる結果となる可能性」にも言及する一方、「分裂を正式に組織化しない方がいいかもしれない」とも述べた。


YouTube ”Victory In Iraq Not Possible - Henry Kissinger”



Kissinger: Victory in Iraq no longer possible [CNN]

"If you mean by clear military victory an Iraqi government that can be established and whose writ runs across the whole country, that gets the civil war under control and sectarian violence under control in a time period that the political processes of the democracies will support, I don't believe that is possible," he said.


His comments come as a commission led by another former top diplomat, James Baker, prepares to offer its recommendations for a change of strategy in the war. The conflict has become increasingly unpopular in the United States as the American death toll nears 2,900, while waves of sectarian violence over the past nine months have left thousands of Iraqis dead.


However, a premature withdrawal of all 140,000 American troops now in the country risks bringing about a "dramatic collapse" of Iraq and eventually require U.S. forces to return to the region, Kissinger said.


YouTube ”Kissinger talks about Iraq, Vietnam, consulting Bush”



キッシンジャーと言えば、メッテルニヒの研究家として著書を出版しており*1、その方面からも興味を惹く人物なのだが 、今ちょうど再読していた渡辺将人『アメリカ政治の現場から』に、キッシンジャーの「リアリストぶり」に触れているところがあった。メモしておきたい。

現実主義(リアリズム、Realism)とは、シカゴ大学のハンス・モーゲンソーが打ち立てた学説で、何よりもまず国益に分析の力点を置いたものだ。つまり、コスト・エフェクティブ(Cost Effective、無駄のない)という「保守系好みの発想」を安全保障にも適用し、「国家にとって真に重要な国益 Vital Interests でない限り、多国のことには一切関与しない」。

世界各地を、アメリカにとって「使える」地域・国と「使えない」周縁に分類し、「使える」地域・国をアメリカの前線衛星基地にする。周縁は無視し、局地戦にも参加しない。リアリストのキッシンジャー博士は、1999年のクリントン政権によるコソボ爆撃作戦に反対した。アメリカにとっての差し迫った国益が存在しない「内戦」だと判断したからだ。




渡辺将人『アメリカ政治の現場から』(文春新書) p.137


先のBBCのインタビューでキッシンジャーが「イラク政府が全土を掌握し、内戦や宗派間対立を制圧できる状態になることを軍事的勝利と呼ぶならば、勝利が可能とは思えない」と「内戦」(civil war)という言葉を使用したことは、気に掛けておきたい。

複雑なのは、保守系の限定関与の姿勢は、反軍拡・平和主義を標榜する民主党内の急進リベラル派にも支持されやすい点だ。
シャコウフキー議員*2は、選挙区内のリベラル系平和主義(武力放棄派)とリベラル系人権擁護派(人権擁護のためなら軍事力も辞さない)の両者への目配りが求められたため、コソボ問題への発言は歯切れが悪かった。


「まずその人物のプリンシプル(政治的原理原則)が何に立脚しているかを見抜け。所属政党はいったん忘れろ」ということを、ことあるごとに叩き込まれた。民主党議員の補佐官をしているからリベラル系だとか、選挙で共和党候補に入れたと聞いて「保守系ですね」といったような大雑把な判断は、たいていの場合、的外れに終わる。




アメリカ政治の現場から』 p.137

アメリカ政治の現場から (文春新書)

アメリカ政治の現場から (文春新書)

*1:The World Restored: Metternich, Castlereagh, and the Problems of Peace, 1812-22

*2:ジャン・シャコウスキー(Janice D. Schakowsky)。イリノイ州民主党下院議員。著者が選挙スタッフとしてその事務所で働いた