- 作者: 京極夏彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/09/27
- メディア: 新書
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『陰摩羅鬼の瑕』よりはミステリ的に楽しめた。警察の捜査活動も丁寧に描かれている。が、その分「妖怪」の影は薄く、アクはあまり強くない感じだった。
個人的に「憑き物」が落ちたところを引用しておきたい。
「為政者がこれでよし、としたものだけが公式な記録だよ」
そんな莫迦なと関口は云う。
「権力者が良しと云ったら事実になるのか? 歴史とはそんな都合の良いものなのか。それじゃ偏向するに決まっているじゃないか。権力者なんてものは自分の都合の良いことしか記さないよ」
権力者が嫌いなんだなあ君はと云って、中禅寺は笑った。
「慥かに君の云うのも解るが、公式というのはそう云うことなんだから、仕方がないじゃないか。公的な機関が編纂した記録が公式の記録なんだよ。だから『徳川實紀』は正史、つまり歴史だが、『信長公記』はただの歴史資料だ。あれは信長の家臣だった太田牛一が自らの日記を元にして江戸初期に著した、織田信長と云う個人の一代記だからね」
「しかし当事者の日記が元になっているのなら、事実が書かれているのだろうが」
「日記だから本当のことが書いてあると何故断言出来るんだい? 日記は私的記録なんだから、それこそ嘘書き放題じゃないのか?」
p.712-713