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交渉戦略の実際

たまにはビジネス書でも。

いま二つの企業が生産性を上げるために、競争をしているものとする。競争に勝つためには、研究開発を進めて新しい技術を確立していかなければならない。どちらが競争に勝つかは、各種の要因に依存する。しかし、最も大きな要因は、研究開発投資の大きさです。これを単純化して、研究開発投資の大きい企業のほうが競争に勝って、生産性を上げることができ、その結果、より多くの利益を得るものとする。これは消耗戦モデルとよぶ。

すなわち、研究開発投資を増やせば相手に勝つことができるが、コストも増える。そのために相手に勝っても、コストに負けて倒産する恐れもある。したがって、無理をしてまで研究開発に勝とうとせず、次の機会を狙う選択もあります。


佐久間賢『交渉戦略の実際』(日経文庫) p,76

この本は、ビジネス上の「コンフリクト(対立関係)」を解決する交渉戦略をテーマにしている。すなわち激動する不安定なビジネス環境における「コンフリクト・マネジメント(Conflict Management)」の指南書だ。

といっても、コンフリクト・マネジメントは、コンフリクトを避けるのではなく、むしろ、それをビジネスの発展の機会として図ることを目的としている(なんとなく、ヘーゲル弁証法を思わせる……)。

コンフリクトの変数には、①数(Nunber)、②複雑性(Complexity)、③曖昧性(Ambiguity)、④速度(Speed)があり、それらは以下の関数関係で表される。

Conflict Management = F(N×C×A×S)

変数の数、変数の値が増えれば増えるほどコンフリクト・マネジメントは、それだけ、困難になる。

=== 具体的な交渉戦略 ===

  • ゼロ・サム交渉とは、利害(パイ)を一定と考え、自分の分け前をたくさん得ようとする交渉で、一方は満足(ウイン)し、他方は不満足(ルーズ)となります。その結果コンフリクトは解決しません。
  • プラス・サム交渉は、パイを当事者の協力により拡大し、双方が分け前を増やす交渉です。その結果双方が満足するウイン・ウイン交渉となります。


p.36

例えば、国際ビジネスにおける各国家や企業、そして個人の間に存在する価値システムの相違がバリア(障壁)として立ち現れる。したがって重要なことは、各バリアを超えて「相互に共感し理解し合える条件」を考えること。この観点から「成功した交渉」はウイン・ウイン交渉になる。

  • 交渉プロセスには、対立関係と協力関係が相互に現れます。
  • 交渉戦略には、交渉成果を重視する場合と、交渉者相互の関係を重視する場合により、その内容が異なります。
  • 協調戦略は、成果と相互関係の双方を重視する戦略。譲歩戦略は、成果を犠牲にしても相互関係を重視する戦略。競合戦略は、相互関係を犠牲にしても成果を重視する戦略。成果も相互関係も重視しない場合、現状維持戦略を選択します。


p.59

重要なのは、相手の出方によって、そのつど交渉戦略を「選択/判断」することだ。ここから、交渉者Xが交渉者Yの立場を想定して判断する枠組み(ディシジョン・ツリー)が描かれる。

=== 特記 ===
交渉は「駆引き」でも、ましてや「ディベート」でもない。例えば、営業マンにおける「営業の目的」は、顧客から「注文をもらう」ことにつきる。顧客とのディベートに「勝利」しても、注文をもらえなければ、それは「敗北」でしかない。

営業の目的は、あくまで、顧客から注文をもらうことです。その営業活動の顧客関係の一つとして、顧客と議論することは許されます。しかし、議論の過程で顧客をとことんまで打ち負かすようなことは、許されないはずです。もし、負かされた顧客が他の人と同席している場合には、「恥をかかされた」と思うかもしれません。だとしたら、その営業マンはその顧客から「注文をもらえる=ビジネス」の可能性を、自ら否定することになります。なぜなら、不愉快な相手とはビジネスをしたくないと思うのが一般的な考えだからです。


p.26

交渉戦略の実際 (日経文庫)

交渉戦略の実際 (日経文庫)