HODGE'S PARROT

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鰯の頭

「鰯の頭も信心から」とは、イワシの頭のようなつまらないものでも、信仰すれば非常に尊いものに見えることから、信仰心の不思議さをたとえたことわざ。


http://gogen-allguide.com/i/iwashinoatama.html

私の良心は私のものであり、私の正義は私のものであり、私の自由は至上のものである。私は永遠なるもののために死にたいものだ。しかし少なくとも太陽が廻っているあいだは、私は人間でありたいと思う。


プルードン『イエスキリスト教の起源』(世界の思想家『プルードン』より。河野健二訳、平凡社

しかし一番驚いたのは、(ギリシャ正教のニコライ大主教による)ローマン・カトリック批判がすごいんだ。彼は日本の明治維新アメリカの南北戦争にたとえる。同じころ同じロシアのメチニコフという人が来るんだけど、これは第一インターナショナルプルードン派だ。プルードン派というのは宗教を一番批判する連中だろ。片っ方はごりごりの坊さんだろ。その両端のロシア人の日本の宗教論で面白いのは、ラス・カサスと同じようなことを言って、カトリック坊主は布教の必要がないところに教えることによって、逆に悪魔を産んでしまったということなんだ。日本の中世史というのはキリスト教の弾圧に成功した唯一の国である。
それをギリシャ正教徒がいうということはどういうことだろう。徳川の封建制を逆に肯定するんだ。俺はキリスト教なんて一律に見ていたんだけど、セクトはすごいもんだね。


平岡正明足立正生『「反世界」の大道芸』(『現代思想』2002年8月号、青土社

フォンタナ 「(興奮して)そういうことは言うべきでなかったな、リカルド! 何という不遜な態度だ!」
リカルド 「不遜でしょうか?──ああいうことに教皇が沈黙を守られる、などとは夢にも思っていませんでしたよ。ナルヴィクからドン河、クレータ島からピレネー山脈にいたるヨーロッパに住む一民族の子らは今日、ただポーランドで殺害されるために生まれてきているのです。ヒトラーは計画的に人生そのものが不合理であることを論証しています。まあ、二週間ほど前、ポーランドルーマニアから伝えられた、恐ろしい詳報を読んでみてください。どうしたらわたくしたちのこの沈黙を弁明できるでしょう! しかもこの鐘はどうです!(リカルドは耳に手をあてて、絶叫に近い喋り方をする)鐘が鳴る、鐘が鳴る、あたかもこの世界が楽園であるとでもいうかのように。この期に及んでなお、このような世界をマリアの御心に捧げるとは、何と鈍感なことだろう!
五億のカトリック教徒──そのうちの二十パーセントはヒトラーに屈していますが──これを手中に収めておられる教皇は、世界の道徳水準について責任をもっておいでではないでしょうか? どうして大胆に……」

(中略)

フォンタナ 「現実を踏まえて話し合ってみよう。国務省の協力者として質問するが、中立政策を検討することなしに、ヒトラーに対してユダヤ人追放の中止を強いることが、どうすれば、教皇におできになる、というのだ?」
リカルド 「ヒトラー教皇の影響力をおそれている事実、これを利用なさればいいのです。ヒトラーはもちろん敬虔の念からではありませんが、戦争遂行中、教会に対してはいかなる処置をとくことも厳禁しました」
フォンタナ 「そんな態度はいつ変わるか、知れたものではない。これまでにもずいぶん多くの聖職者を殺害したではないか!」
リカルド 「(熱っぽく)そのとおりです!──それにもかかわらず、ローマはヒトラーに対する友好関係を破棄しません! 何故です? ローマ自身に対する攻撃とは感じないからでしょうか? ところがこれはローマに対する攻撃なのです。教皇は、ドイツでその兄弟が殴り殺されても、眼をそらしてしまわれる。ドイツで自身を犠牲にする聖職者たちの行動はヴァチカンの命令にもとずくものではありません──それは、むしろ、ヴァチカンの非干渉原則に違背することになってしまいます。彼らはローマから見捨てられているので、彼らの死も、ローマの罪の贖いとして記録されることもないでしょう。
聖職者たちがいまだにヒトラーのために祈ることを……いまだにこの男のために祈ることをですよ!──ローマが許しているかぎりは、そのかぎりは……」



R.ホーホフート『神の代理人』(森川俊夫訳、白水社

アイヒマン裁判が果たしたと同じ歴史的思い出の機能に挑んだ芸術作品のなかでも、最も有名なのは『神の代理人』──ドイツの若い劇作家ロルフ・ホーホフートのかなり長大な戯曲である。これはわれわれがふつうに諒解している意味での芸術作品である。

(中略)

すべてとは言わぬが、ある種の芸術は真実を語ることを中心的な目標としており、そのような芸術を判断するには、それが真実にどれくらい忠実か、それが語る真実がどれくらい意味深いかによらなくてはならない。この基準をもって見たとき、『神の代理人』は重要な戯曲である。ナチス、親衛隊、ドイツ実業界の首脳、そして大部分のドイツ国民の罪状──ホーホフートはそのどれも軽視していない──は、いまさら賛否を問う必要もないほど周知のことである。しかし『神の代理人』は、これが最も議論を呼んだ部分なのだが、ドイツのカトリック教会と教皇ピウス十二世の共犯性をも強調しているのである。この罪は事実であり、この告発は正当であるとわたしは思う。



スーザン・ソンタグ「『神の代理人』をめぐって」(『反解釈』所収。高橋康也他訳、竹内書店新社、ちくま学芸文庫

反解釈 (ちくま学芸文庫)

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ローマ教皇とナチス (文春新書)

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革命家の告白―二月革命史のために

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