HODGE'S PARROT

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ベルニーニのエクスタシー


ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini、1598 - 1680)も好きなアーティストで、あの滑らかな質感と独特の「表情」をもつ彫刻作品の数々は神業だな、と思う。
で、そんなベルニーニの『アポロンとダフネ』をカヴァーに使用したCDをラックから探しだし、聴いてみた。

Firenze 1616 (Dig)


1616年フィレンツェ──失われた恋の歌』と題されたアルバム。ヴァンサン・デュメストル/Vincent Dumestre 指揮&ル・ポエム・アルモニーク/Le Poème Harmonique の演奏。

収録されているのは、

  • ルネサンスの終焉──フィレンツェ、新しい声楽芸術(クラウディオ・サラチーニ、ジューリオ・カッチーニ
  • 歌劇『チェファロの略奪』より(クリストファーノ・マルヴェッツィ、カッチーニ
  • 音楽劇『悲嘆にくれるオルフェーオ』(ドメーニコ・ベッリ)


なんというか……歌にならざる歌、その時々の瞬間の情緒を即興のように「歌いながら語る」。それが悩ましいほど美しく、ときに官能的で、想像力を喚起させる。切実な感情表現をもたらしている。完璧な音楽ではない「いびつさ」が、非常に魅力的なのだ。まさに法悦の響き──ポエム・オブ・エクスタシー。この「音楽」は人を誘惑する。
(ついでに言えば、この「商品」自体が美しい。ケースのデザインからタイポグラフィーまで。GJ!)


いちおうこの素晴らしいディスクを買うきっかけを与えてくれたベルニーニの『アポロンとダフネ』を──感謝を込めて。

それと YouTube にあったベルニーニという芸術家を紹介している映像を──BBCが製作したようで見応え抜群。なくなる前にお見逃しなく(笑)。『アポロとダフネ』は3つめの動画で解説されている。
Bernini - Power of Art

Bernini - Power of Art 2

Bernini - Power of Art 3

見上げる天井に広がる無限の空間、その空間に浮遊する聖人や天使たち、そして中心の聖なる人物や象徴から発する超自然的な光。このようにバロック美術はイリュージョンによってわれわれを現実から遊離させ、聖人が経験するような宗教的幻視の世界に誘い込もうとする。そして最終的には、こうした演劇的な効果によって、何ものかを伝えようとするものなのだ。
したがって、「プロパガンダ(宣伝)」はバロック美術がもっている本質の一つである。その「プロパガンダ」は、ポッツォの天井画のように、修道会の伝道活動や聖人の栄光を称えようとする場合もあれば、教皇や君主の治世を賛美したり、バルベリーニ家やメディチ家といった家そのものを称賛しようという場合もある。つまり、聖なる場合も俗なる場合も、またその両者が渾然としている場合もあるのだ。


そして、「プロパガンダ」の次に、バロック美術の特質としてあげられるのは、その幻視的性格である。聖人の見るヴィジョン(幻視)こそ最高の宗教的啓示であり、そうしたおりにしばしば訪れる法悦の状態こそ最高の宗教的境地だというのが、反宗教改革時代以降の「バロック的宗教精神」であった。




『名画への旅11 バロックの光と闇』(講談社) p.134

Bernini: Genius of the Baroque

Bernini: Genius of the Baroque