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異邦人たちの慰め


ビデオで観たときの邦題は『迷宮のヴェニス』だった。イアン・マキューアンの小説『異邦人たちの慰め』(The Comfort of Strangers)をポール・シュレーダーが監督した映画は。脚本はハロルド・ピンターであった。
Comfort of Strangers Trailer - Christopher Walken


マキューアンの本にはエピグラフが二つある。一つはエイドリアン・リッチ。もうひとつはチェザーレ・パヴェーゼ/Cesare Pavese からの引用。シュレーダーの映画は、パヴェーゼのモチーフのほうに重きを置いた演出になっていたように思う──もっとも、今では、ヴェニスの街とルパート・エヴェレットの美しさをひたすら撮っていただけのような印象しか残っていないのだが……。
パヴェーゼからの引用は以下。ちょっといい感じ。タイトルの The Comfort of Strangers はここから来ているのだな。

旅は野蛮である。旅人は否も応もなく異邦人たちを信じ、身に馴染んだ故郷や友人たちの慰めをすべて見失う。そこにはいつも不安がある。思いどおりになるのは必要最低限のもの──空気や、眠りや、夢や、空だけである。それらはすべて永遠を、あるいはわれわれが永遠であると考えるものを志向する。




『異邦人たちの慰め』(宮脇孝雄 訳、早川書房)より p.6



この『迷宮のヴェニス』(The Comfort of Strangers)という映画を思い出したのは、メアリ役で出演していたナターシャ・リチャードソンNatasha Richardson、1963-2009) が先月19日、スキーの事故で亡くなったからだ。まだ45歳の若さであった。


リチャードソンは、ケン・ラッセルの『ゴシック』([http://www.imdb.com/title/tt0091142/:title=Gothic]、メアリー・シェリー役)や、マーガレット・アトウッドの小説をフォルカー・シュレンドルフが映画化した『侍女の物語』([http://www.imdb.com/title/tt0099731/:title=The Handmaid's Tale])などに出演していて、それらがとても印象に残っていた。そう、コリン・ファースが主演の J.K.カーの小説『ひと月の夏』を映画化した同名作品『A Month in the Country』にも出ていたな……。
彼女の死亡記事を読んでから、イアン・マキューアンの本を開いたとき、そこで最初に眼に入ったチェーザレ・パヴェーゼの文章が、なんだかとても感慨深かった。

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