- 作者:明石 政紀
- 発売日: 2003/04/01
- メディア: 単行本
明石政紀の『ドイツのロック音楽―またはカン、ファウスト、クラフトワーク』を読んでいる。クラフトワークぐらいしか知らない僕にとって、ドイツのロック(クラウトロック、Krautrock)はまったく未知のものであるのだが、しかしそこかしこにクラシック音楽や現代音楽とクロスするところがあって、意外な親近感をもった。また、ドイツ産「実験肌ロック」──このドイツとは「西ドイツ」のことであるが──と言っても、地域格差があること(あったこと)など、あたりまえのことを気づかせてくれる。例えば、
例えば、冷戦の最前線にいた「陸の孤島」西ベルリンでは麻酔的な現実逃避指向(アシュ・ラ・テンペル、タンジェリン・ドリーム)、カトリックとヴァーグナーの伝統が息づく南ドイツのミュンヘンではサイケデリックな共同体幻想(アモン・デュール、ポポル・ヴフ)、ライン河畔の新興産業都市デュッセルドルフでは即物的な機械の喜悦(クラフトワーク、ノイ!)などと大雑把にそれぞれの地の特色を分けることができる。
まあ、もともとドイツは、パリやロンドン、東京といった中心のない地方分権の国であり、それぞれの町のロック・シーンと言っても皆が知りあえ混じりあえるほど小さなものだったので、各都市の風土・伝統とあいまって市内のグループがある程度の共通点を持ったとしても不思議ではないだろう。とはいうものの、この地方色分け表に当てはまらないグループだってたくさんいるはずだ。いずれにせよ、こうした地方格差も「クラウト・ロック」の多彩さに寄与したと言える。
『ドイツのロック音楽』(水声社) p.26-27
この本は、副題にもあるように、カン、ファウスト、クラフトワークを中心に書かれている。「偽作ライナーノーツ」と銘打った詳細なアルバム解説だ。読み応えがあり、とても参考になる。「未知の音楽」への興味を抱かせ、誘い、そして優れた道案内をこの一冊の本が果たしている。
で、いちおう「音」で確認しておこうと YouTube で映像を観たのだが……ちょっと笑った。なんとなく「垢抜けなさ」があって、そこがイギリスのバンドと違うところであり、それがまた個性的な魅力──ドイツっぽさ──を放っているのかなと。
まずはカン/Can の《I Want More》を聴いてみたい。明石政紀氏も書いているが、アフリカ高原を走り抜けると、そこは……(やっぱり)ライン河畔だった……という感じの曲。アルバム『Flow Motion』(1976年)に収録。
Can - I Want More (live German TV)
- アーティスト:Can
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: CD
次はファウスト/Faust の《Miss Fortune》。どことなく教会音楽のような荘厳さと神秘さと、カルトっぽいデタラメさを漂わせている。ファーストアルバム『Faust』(1971年)に収録。
Miss Fortune - Faust
- アーティスト:Faust
- 発売日: 2001/01/09
- メディア: CD
そして最後はクラフトワーク/Kraftwerk。やっぱりこれだな、《Pocket Calculator》。アルバム『Computer World』(1981年)に収録。
Kraftwerk - Pocket Calculator Live 1981
- アーティスト:Kraftwerk
- 発売日: 2003/02/11
- メディア: CD
さて、この三バンドの共通点をまとめてみると、
- イ、しつこい反復が好き
- ロ、機械(ないし機械的動き)が好き
- ハ、「ロック」以外の分野の語彙や文脈を持ち込んだ
- ニ、技法があっても技法を見せびらかさない
- ホ、歌はあっても歌心はない……
いやいや、それだけだったら他の幾つかのバンドにも同じことがいえる。カン、ファウスト、クラフトワークの音楽を特異なものにし、かつ孤立させていた特徴を強引に四つの標語にまとめてしまえば、それは「ズレとユーモアと距離と覚醒」である。
『ドイツのロック音楽』 p.39
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