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カート・ヴォネガット死去



A Man without a Countryスローターハウス5』や『猫のゆりかご』などの作品で知られるアメリカの作家カート・ヴォネガットKurt Vonnegut が、4月11日、ニューヨークで亡くなった。84歳だった。



カート・ボネガット氏死去 米小説家 [CNN]

インディアナ州インディアナポリスのドイツ系移民の家庭に生まれる。第二次世界大戦中、母親の自殺直後にドイツ戦線に配属されるが、連合軍がドイツ軍の最後の反撃に対抗した「バルジの戦い」で捕虜となり、ドレスデンでの拘束中に連合軍の爆撃を経験。


米作家のカート・ボネガット氏が死去 [朝日新聞]

第2次大戦でドイツに派兵され、捕虜としてドレスデン大空襲を体験。これが69年の作品「スローターハウス5」につながり、時空を超えて存在する自身の分身を通じて大量殺戮(さつりく)を糾弾した同作品で米国を代表する作家の一人として不動の地位を得た。人間の親切への信を根底に、独特のユーモアで生きることの絶望や皮肉を描いた。

Obituary: Kurt Vonnegut [BBC NEWS]

Vonnegut referred to his experiences of Dresden in several of his later novels, most notably Slaughterhouse Five in 1967.


Its protagonist, Billy Pilgrim, copes with the trauma of a similar experience by travelling to the planet Tralfamadore, whose inhabitants see all time existing simultaneously.


Published at the height of the Vietnam War, and embraced by the anti-war movement, the book was excluded from some schools and public libraries on obscenity grounds.

Schlachthof 5 oder der Kinderkreuzzug 1944年、ヴォネガットアメリカ合衆国第106歩兵隊員として第二次世界大戦のドイツ戦線に参加した。バルジの戦いで捕虜となり、連れて行かれていたドレスデンで、同盟軍(英米空爆部隊)によっておこなわれた空爆(いわゆるドレスデン大空襲。芸術品と謳われたドレスデン市街は壊滅、死傷者が10万人を超えたともいわれる第二次大戦中のヨーロッパで最悪の爆撃)を経験した。


この深刻な体験は、(ヴォネガット自身は否定するが)彼が作家になる契機、作家としての彼の根源的体験とも言われ、20年以上の時を経た『スローターハウス5』において初めて顕示的に主題化された。「大量殺戮を語る理性的な言葉など何ひとつない」という言葉通りの奇妙な形式をもつこの半自伝的作品によって、ヴォネガットは現代アメリカ作家として決定的な評価を獲得することになる。




カート・ヴォネガット [ウィキペディア]

Slaughterhouse-Five [VHS] 何列にもならぶ長いテーブルには、宴会の支度が整えられていた。各席に、粉乳の罐を改造したボウルがおいてある。それより少し小さな罐は、タンブラー。どのタンブラーにも、暖かいミルクが注いであった。

それぞれの席に、安全剃刀と、タオルと、剃刀の刃のパッケージと、板チョコレートと、二本の葉巻と、石ケンと、十本のタバコと、紙マッチと、鉛筆と、ロウソクがそろっていた。

ロウソクと石ケンだけが、ドイツ製であった。どちらも同じように不気味な乳白色をしていた。

イギリス人には知るよしもなかったが、ロウソクと石ケンの原料は、ユダヤ人やジプシー、同性愛者、共産主義者、その他の国家の敵からしぼりとった脂肪だったのである。

そういうものだ。




カート・ヴォネガット・ジュニアスローターハウス5』(伊藤典夫訳、早川書房/ハヤカワ文庫)p.116


作家カート・ヴォネガット氏死去、ニューヨークタイムズが報じる - 米国 [AFP]

ドレスデンの地下食肉処理場で「時間から切り離された」兵士の、形而上学的で人間主義的な物語はこの印象的なフレーズで始まる。「All this happened, more or less,(ここにあることは、まあ、大体そのとおり起こった)」(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫)

So It Goes. (Kurt Vonnegut 1922 - 2007)



カルテットの歌は、<おれのむかしの仲間>であった。
「ああ、むかしの仲間に会えるなら」と、四人組はうたった。「この世界さえ投げだそう」云々。それからすこしして、「さよなら永遠に、むかしの友よ、娘子よ、さようなら永遠に、むかしの恋人よ、同胞よ──みんなに神の祝福を──」云々。




カート・ヴォネガット・ジュニアスローターハウス5』 p.204


God Bless You, Mr Rosewater

God Bless You, Mr Rosewater




米作家K・ボネガット氏死去 カウンターカルチャーの旗手 [産経新聞]

ユーモアとペシミズムが織りなす独特の語り口で、米文化の衰退や人間の存在の意味を問う作品を発表。ベトナム戦争に悩む60〜70年代の若者たちをとらえた対抗文化(カウンターカルチャー)の旗手となった。


Kurt Vonnegut, Writer of Classics of the American Counterculture, Dies at 84 [New York Times]

“The child of a suicide will naturally think of death, the big one, as a logical solution to any problem,” he wrote. His son Mark also suffered a breakdown, in the 1970s, from which he recovered, writing about it in a book, “Eden Express: A Memoir of Insanity.”


Writer Kurt Vonnegut dies at 84 [BBC NEWS]

Last year, he came out of semi-retirement to write a new book - A Man Without a Country - because of his "contempt" for current US President George W Bush.


Mother Night

Mother Night


Kurt Vonnegut dies at 84 [Guardian]

Vonnegut once said that, of all the ways to die, he would prefer to go out in an airplane crash on the peak of Mount Kilimanjaro. He often joked about the difficulties of old age, saying in an interview with the Associated Press in 2005 that "when Hemingway killed himself he put a period at the end of his life; old age is more like a semicolon."


Hocus Pocus

Hocus Pocus



↓は、「セカンドライフ」上でのヴォネガットのインタビュー。2006年の8月に行われたものだ──「そういうものだ」。

The Infinite Mind in Second Life with Kurt Vonnegut

この本のエピグラフが、有名なクリスマス・キャロルからとった四行連句である理由は、そんなところにある。泣いてもふしぎのないできごとには何回も遭遇したが、ビリーはほとんど泣かなかった。すくなくともその点では、彼はキャロルにうたわれるキリストに似ていた──



 牛のもうもう鳴く声に
 神の御子はめざめます
 けれど小さなイェスさまは
 お泣きになりません




カート・ヴォネガット・ジュニアスローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)』 p.233-234

Slaughterhouse Five CD

Slaughterhouse Five CD

小鳥たちがおしゃべりをしていた。
その一羽がビリー・ピルグリムにいった、「プーティーウィッ?」




スローターハウス5』 p.253

ご冥福をお祈りいたします。



[Kurt Vonnegut's website]

青ひげ (ハヤカワ文庫SF)「そのふしぎで利口な動物たちを愛と感謝の目でながめ、声に出してこういいなさい──『肉体よ、ありがとう』」
わたしはそうした。
両手を目の前にさしだし、心からの思いを声に出していった──「肉体よ、ありがとう」
ああ、幸福な肉体。ああ、幸福な魂。ああ、幸福なラボー・カラベキアン。




カート・ヴォネガット『青ひげ』(浅倉久志 訳、早川書房/ハヤカワ文庫) p.367


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