HODGE'S PARROT

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足鍵盤付ピアノ

イェルク・デムスの13枚組「シューマンピアノ独奏曲全集」を買った。NUOVA ERA REDORDS からのライセンス盤で超安かった。↓は NUOVA 盤。

Complete Piano Works

Complete Piano Works


全集といっても完全・完璧全集ではない。例えば、伊藤恵が録音している『ショパンノクターンによる変奏曲』はないし、断片・断章たぐいの曲もない。しかし作品番号付き作品はすべて網羅されているし、『Canon für Alexis』や『Hasch Mann』『Mit Gott』なる初耳の曲も入っている。

何より「ペダルフリューゲル」(足鍵盤付ピアノ)のための音楽が収録されているのが貴重だ。シューマニアーナを気取る僕ではあるが、実は、『ペダルフリューゲルの為のスケッチ 作品58』、『ペダルフリューゲルの為の練習曲 作品56』は初めて聴くのだった。白状すれば、『パガニーニの奇想曲による6つの練習曲』や『フゲッタ形式の7つのピアノ小品』も初めて聴いた。

(演奏される機会の少ない)これらの曲は、むろん悪くないし、やっぱりシューマンっていう感じだ。とくに『パガニーニ練習曲』はリストの華麗なるヴィルトゥオーゾ作品とかぶっているところがあるので、比べると、どうしても響きが重く地味たるを得ないが、しかしこのちょっと重い「感じ」こそは、まさしくシューマンだろう。よい曲じゃないか。例えばキーシンやアムランのようなバリバリ弾くピアニストが演奏すれば、かなり栄えるのではないか。

自分の指を通じてそっとシューマンを愛することのできるものにとっては、このレガートとスタッカートとはこもごもにある微妙な運動感覚を伝えてくるだろう。それは指から腕を伝わって心ににじみ入るだろう。シューマンはこういうデテールにおいて独自の美しさを秘める芸術家であった。その充実は時に、献身的な集中をもってせねば聞かれずに終わる。それは祈りにも似た行為ではあるが、このことによらなければいかに透徹した言葉も、徹底した技術もシューマンの片隅の美しさ充溢を開くものとはならない。


こうしてこれほどつつましく簡素な表現においてすら、すでに不思議な悲しさがただよう。素朴な美しさのみがもつ、一種独自の悲しみといおうか。




前田昭雄『シューマニアーナ』(春秋社)p.37

シューマニアーナ

シューマニアーナ