HODGE'S PARROT

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虎よ!虎よ! ブリテンの『ウィリアム・ブレイクの歌と箴言』



イギリスの詩人にして画家のウィリアム・ブレイクは僕の好きなアーティストで、とくに『虎/The Tyger』の持つ不思議な魅力に取り憑かれている。もちろん暗唱している。


The Tiger

Tyger! Tyger! burning bright
In the forests of the night,
What immortal hand or eye
Could frame thy fearful symmetry?



→ Songs of Experience (The Tyger) by William Blake [Wikisource]


このブレイクの詩にインスパイアされた作家*1やアーティストは多いが、イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンBenjamin Britten もその一人だ。

ブリテン:カンティクル 全曲

ブリテン:カンティクル 全曲

  • アーティスト: ブリテン(ベンジャミン),ピアーズ(ピーター),フィッシャー=ディースカウ(ディートリヒ),ボウマン(ジェームズ),ハエシー(ジョン),シャーリー=カーク(ジョン),ブリテン,タックェル(バリー),エリス(オシアン)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2006/10/25
  • メディア: CD
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ブリテンには珍しくテノールではなく(つまりピーター・ピアーズではなく)、バリトンのディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの「声」にインスピレーションを受け、作曲した。ただし、ブックレットによると、詩を選んだのはピアーズのようだ。
ウィリアム・ブレイクの歌と箴言』Op.74(1965年作曲)は、ブレイクの『無垢と経験の歌』と『地獄の格言』から採られている。

  • 箴言1「孔雀の美観は神の栄光である」-歌:ロンドン
  • 箴言2「牢獄は法律という石によって建てられ」-歌:煙突掃除の少年*2
  • 箴言3「小鳥は巣を、蜘蛛は網を、人は友情を」-歌:毒の樹
  • 箴言4「朝に考えよ、昼に働け」-歌:虎
  • 箴言5「怒っている虎は教育のある馬よりも賢い」-歌:蝿
  • 箴言6「愚行の時間は時計ではかれるが、英知の時間は時計でははかれない」-歌:ああ、向日葵
  • 箴言7「一秒の砂に世界を見、一輪の野の花に天国を見る」-歌:毎晩毎朝


バリトンの低い声とブリテン自身のピアノが謹厳にして(箴言)、幻惑的な効果(歌)を生み出している。『虎』におけるピアノの「動き」──鋭く、明滅するような──はとても印象的だ。


The

The "Divine Comedy": William Blake



このCDのカップリングは5曲からなる『カンティクル』(Canticle)。こちらはピーター・ピアーズによるテノールに、ボーイ・アルト(ジョン・ハエシー)、カウンターテノール(ジェイムズ・ボウエン)、バス(ジョン・シャリー=カーク)という「様々な男性の声」に、ピアノとホルン、ハープからなる音楽が、色彩感溢れる、得もいえぬ耽美的な雰囲気を醸し出している。


とくに『聖ナルキッソスの死』(詩はT.S.エリオット)の、テノールとハープの二重奏は、甘美この上もない。ハープのグリッサンドテノールの喘ぎは、エクスタシーを表現しているのではないか。実に官能的だ。

Lesbos, Narcissus, and Paulos: Homosexual Myth and Christian Truth

Lesbos, Narcissus, and Paulos: Homosexual Myth and Christian Truth

川のほとりでは、
目は自分の目尻が、
ほっそりしていることを知り、
手は自分の指先が
ほっそりしていることを知りました




T・S・エリオットナルキッソスの死』*3

An Echo Of Narcissus

そんなことを知ってしまったために
彼は普通の人の生き方ができなくなって、
神のために踊る踊り手となりました。


(中略)



彼はついに
自分の色白の肌の味、
自分の滑らかな肌の戦慄を知り、
自分も酔って年老いたように感じました。*4

Songs of Britten Finzi & Tippett

Songs of Britten Finzi & Tippett



Eliot, T〔homas〕 S〔tearns〕 (1888-1965) [glbtq]

The Waste Land and Other Poems: Including The Love Song of J. Alfred Prufrock One of Ezra Pound's self-appointed tasks as editor of the manuscript of The Waste Land was to tone down the poem's homoeroticism. For instance, he recommended the cutting of the poem "Saint Narcissus," that peculiar fusion of pagan and Christian imagery that now appears at the end of the Complete Poems.


A number of familiar lines in the final draft of The Waste Land are toned-down versions of what appeared in the manuscript: "My friend, blood shaking my heart" was originally "My friend, my friend, beating in my heart"; "I have heard the key" was "friend, my friend I have heard the key"; and "your heart would have responded" was the more revealing "your heart responded."


そういえばエドマンド・ウィルソンは『アクセルの城』で、T.S.エリオットとヘンリー・ジェイムズの類似を論じていた。

エリオットの詩の重要な主題のひとつは、実際、ホーソーンからイーディス・ウォートンにいたるアメリカはニューイングランドおよびニューヨークの作家たちの作品に歴然とあらわれている、あの未知の境遇にのぞんだときの失意、あの鬱々とした熱情の暗い疼きである。T・S・エリオットはこの点でヘンリー・ジェイムズと多くの共通点をもっている。
思い切ってなにもやれなかったという絶望的な意識をもっているルーフロック氏や「ある婦人の肖像」の詩人は、自分たちの生き方があまりにも慎重すぎ、あまりにも貧弱なものであったと悲しくも気づいたときにはすでに遅すぎたあの『使者たち』や「密林の野獣」の中年の主人公たちと正確に照応している。ヘンリー・ジェイムズにおいて、人生の恐怖は卑俗性への恐怖と密接に結びついている。そしてエリオットもまた卑俗性──それを彼はエイプネック・スウィーニーという象徴的な人物に具現している──を恐れ、同時に彼はそれに蠱惑される。




エドマンド・ウィルソンアクセルの城 (ちくま学芸文庫)』(土岐恒二 訳、ちくま学芸文庫)p.140-141


narcissus

Death by Water



Phlebas the Phoenician, a fortnight dead,
Forgot the cry of gulls, and the deep sea swell
And the profit and loss.
   A current under sea
Picked his bones in whispers. As he rose and fell
He passed the stages of his age and youth
Entering the whirlpool.
   Gentile or Jew
O you who turn the wheel and look to windward,
Consider Phlebas, who was once handsome and tall as you.




The Waste Land by T. S. Eliot [Wikisource]



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*1:やはりアルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』かな

*2:ルース・レンデル/バーバラ・ヴァインの『煙突掃除の少年』(1998)は言うまでもなくこのブレイクのテクストと関連がある。

*3:高橋宣也 訳、CDブックレットより

*4:同上

リトル・ブリテン、ラブ



英国通やCATVで海外ドラマを見ている人にとっては今さらだと思うけど、BBCで放映されている『リトル・ブリテン』には笑った──たまたま YouTube で英国政治関連の映像を探していて、『リトル・ブリテン』にぶちあたり、あまりの「面白さ」に食っていたヨーグルトを液晶にぶちまけたくらいだ。

とくに二人のゲイ・キャラクターが、それぞれ、最高にして最強だ。
マイケル首相の秘書官、セバスチャン・ラブ(Sebastian Love)と、

Little Britain - Sebastian in the US



「村で唯一のゲイ」ダフィド・トーマス(Daffyd Thomas)。

Daffyd wants the only copy of Gay Times



Wikipedia によると、ダフィド演じるマット・ルーカスは、『インディペンデント』の発表した「2007年有力ゲイ100人」リストの8位にランクインした。

In May 2007, Lucas was placed 8th in the list of the UK's 100 most influential gays and lesbians, in fields as diverse as entertainment, business, politics, and science, by the British newspaper The Independent.

つまり、実際に、ダフィド=マットはUKの「グレイトな」ゲイなのである。

→ The pink list 2007: The IoS annual celebration of the great and the gay [THE INDEPENDENT]


この「リスト」については、マーガレットさんが日本語で解説してくれているので、参照のこと。



外国のコメディって、いまいち笑えないところがあるのだけれど(その国の文化や常識が前提になっているので)、この『リトル・ブリテン』には爆笑した。さすがBBCだ。早速DVDを買ってこよう、と。

Inside Little Britain

Inside Little Britain

面白いとは何だろう。おおかたは、以前は美しい(あるいは、良い)とは思われてこなかったものごとを指して使われ、そこにはタブーの含みがある。
ニーチェの指摘どおり、病人は面白い。悪意ある人も面白い。この言い回しで重宝がられているのは、思慮深さではなく、率直さが伝わってくる点だ。尊敬ではなく、無作法あるいは横柄あるいは図々しさ。価値の尺度として見れば、「面白い」は、調和ではなく衝突を好む後ろ盾となっており、「面白い」の反対語は「退屈」である。





スーザン・ソンタグ「美についての議論」(木幡和枝 訳、NTT出版『良心の領界』より) p.279

良心の領界

良心の領界

英保守党「影の内閣」文化相は日本通



ブラウン内閣発足に伴い、デービッド・キャメロン党首率いる野党保守党も「影の内閣」を改造した。

Conservative front bench [BBC NEWS]


ゲイであることを公言しているアラン・ダンカン議員(Alan Duncan 、1957年生まれ)は、今回は、ビジネスおよび企業規制改革大臣(Business, Enterprise and Regulatory Reform)に就任。相変わらず党内での実力者ぶりが伺える。
ニック・ハーバート議員(Nick Herbert、1963年生まれ)は法務大臣(Secretary of State for Justice)に選ばれた。ゲイであることをオープンにしているハーバート議員──アランデルでパートナーのジェイソンさんと一緒に暮らしている──は、保守党期待の若手だ。


で、他にどんな人がいるのかチェックしていて興味を惹いたのが、文化、メディアおよびスポーツ大臣(Culture, Media and Sport)に抜擢されたジェレミー・ハント議員(Jeremy Hunt)。1966年生まれの若手であるが、何よりも、かなりの日本通だという。


Jeremy Hunt (politician) [Wikipedia en]

Hunt attended Charterhouse School and Magdalen College, Oxford, where he achieved a First in Philosophy, Politics, and Economics (PPE).


Shortly after graduating he became a management consultant before resigning to become an English language teacher in Japan. Japan made a big impact on Hunt - he became a proficient speaker of Japanese and an enthusiast for modern Japanese culture. For many years, Japan, politics, his business interests, and a busy social life were Hunt's main passions.

経歴を見ると、オックスフォード大学で哲学、政治、経済を学んだ後、日本に語学教師として来日し、すっかり日本文化に魅了されたという。日本語も流暢に話せるようだ。
またハント氏は、HIVエイズ問題や障害者の問題にも熱心に取り組んでおり、この分野の専門家でもある。
イギリス保守党の若手有力議員として、また日本と関わりのある政治家として、このハント氏も注目していきたい。


[Jeremy Hunt Official website]



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