HODGE'S PARROT

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『アメリカン・サイコ』 American Psycho/2000/アメリカ 監督メアリー・ハロン

シェーンベルクの『ナポレオン・ボナパルトへの頌歌』を聴きながら、このレビューを書いている──BGMはとても重要だ。演奏はもちろんピエール・ブーレーズ&アンサンブル・アンテルコンタンポラン。ブーレーズには新旧二つの録音があるが、僕の好みは1998年録音のDG盤ではなくて、1980年のSONY盤。SONY盤のほうが、皮肉めいたピアノの「ため」とボーカルの「あてこすり」がより辛辣に聞えるからだ。

で、映画『アメリカン・サイコ』であるが、とても面白かった。主人公バトリック・ベイトマン異性愛者の青年でハーバード・ビジネススクール出身のエリート。NYの高級マンションに住み、高価なブランド物を身につけ、立派なオフィスに勤めているのだが、彼の主な「戦場」は仲間たちとのパワー・ランチやディナーの場。
ヘテロ・セクシュアルらしいナルシズム全開──エクササイズに励み、そのご自慢の肉体をこだわりの化粧品で磨く──のベイトマンは、仲間と「名刺」の質を競い合う。この「名刺」の競い合いは、いかにもヘテロ・セクシュアルっぽくて笑ってしまう。まるで子供の頃にやった小便の飛ばしっこやベニスの大きさを競い合い、一喜一憂しているみたいだ。

しかしその他愛もない「遊戯」に負けた鬱憤を、ベイトマンは、殺人で昇華する。そう、彼のもう一つの顔は稀代の殺人鬼だったのだ。もちろんベイトマン異性愛者なので、その殺人も快活というか、罪悪感のカケラもなく、ほとんどエクササイズのノリ。行き当たりばったりの殺人であるが、例えば同性愛者のトム・リプリーなんかと比べて「暗さ」はほとんど感じられない。女性を完全に「モノ」扱いするのもヘテロ・セクシュアルの面目躍如だろう。ベイトマンの態度には、異性愛者としてのふてぶてしいまでの自信に溢れている。

そういったストーリーの中で、特筆すべきは虚栄に満ちた「80年代」の再現。風俗、とくに音楽のチョイスは、ストレートのイトマンのイヤミなほどの薀蓄と相俟って、皮相ながらも、どこかワクワクさせるところがあり、狂騒のあの時代のノスタルジーを掻き立てる。

確かにストーリー的にはヘテロ・セクシュアル特有の「おぞましさ」がこれでもかと披露されるが──もっとも、ゲイの僕がこんなことを書くと、ストレートのイトマンに「None of your Business !」と中指立てられそうだが──、ブレッド・イーストン・エリスの原作ほど露悪的ではない。「確信的な」皮肉が利いていてコメディ・タッチの風俗映画としても楽しめる。

なかなか興味をそそる映画で(個人的には傑作だと思う。クリスチャン・ベールの演技と体は最高)、もっといろいろと書きたいこともあるのだが、ビデオ(DVD)を返しに行かなくてはならないので。