HODGE'S PARROT

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No Night Is Too Long

"Gallowglass"っていう単語には、どこか惹かれる。
辞書には、こんな風に書いてある。

GALLOWGLASS - in dictionary


Gallowglass: gal·lo·glass or gal·low·glass Pronunciation Key (gl-gls) n. [Irish Gaelic galloglach : gall, foreigner + oglach, soldier (from óg, from Old Irish óac.
See yeu in Indo European Roots).] \Gal"low*glass`\, n. [Ir. galloglach. Cf. Gillie.]


Galloglass or gallowglass (Irish gallóglach, from gall, 'foreigner', and óglach, 'young warrior servant'). An armed servitor or foot soldier in ancient Ireland. Shakespeare speaks of kerns and gallowglasses as coming from the Western Isles of Scotland. See also KERN.

そしてこの"Gallowglass"という言葉を──ミステリーの仕掛けとして──素晴らしく意味深に使ったのが、バーバラ・ヴァイン(ルース・レンデル)の『Gallowglass』(邦題『悲しきギャロウグラス』)だ。

Gallowglass

Gallowglass

哀しきギャロウグラス (角川文庫)

哀しきギャロウグラス (角川文庫)

鬱の病いを持つ青年ジョー。病院から追い出された上に、里親からも見棄てられ、絶望した彼は遂に自殺をはかる。その命を救ったのは、謎のインテリ青年シャンドー。この時からジョーは、彼の服従者になることを決意する。今まで愛された経験のないジョーが、初めて出会った「運命の人」であった…。実は、大富豪夫人ニーナの誘拐を、シャンドーは企てていた。その彼に、ジョーは邪険にされ、冷たく利用されても、盲目的に愛を捧げ続ける。しかし事件は意外な展開へ…。無気味とユーモア、欲望と狂気、悲劇と喜劇が交錯する、異色の力作。

もちろん、ヴァイン/レンデルらしい「仕掛け」に翻弄され、「Gallowglass」が何を意味していたのかが、最後にわかる。Das Haus der Stufen



ところで、Amazon でヴァインの作品を探していたら、有名絵画をカヴァーに使ったドイツ語版が結構あった。レンデル/ヴァインはドイツでも人気なんだな……『階段の家』がブロンズーノか……わかるわかる。

で、その中でも、とびきりのやつが『No Night Is Too Long』(邦題『長い夜の果てに』)だ。なんといってもデイヴィッド・ホックニーの作品を使用。わかるわかる。

Keine Nacht dir zu lang

Keine Nacht dir zu lang

わたしはイヴォーを焦らそうとしてマルチンが立ち去るのを待ったうえで、肌を刺すように寒いにもかかわらず、わたしのような立場に置かれた男が相手を手玉にとって誘惑するときに考えつきそうな装いを凝らした。断っておくが、その種の身なりを実際に知っていたわけではなく、本や映画から推測したり、ジルマンと付き合っていた頃のことをぼんやりと思い出しただけである。
そんなわけで裾が裂けたジーンズをはき、素足に上半身も素裸のまま、金のチェーンを金色の胸毛の間に掛けて、ジーンズには西部のカウボーイを彷彿させるメダリオンの付いた茶色の皮のベルトを通すと、そのいでたちでイヴォーの前に登場した。イヴォーはわたしを一目見るや、口元をひくひくと痙攣させて言った。
「それがゲイの崇める聖母マリアってわけかな? すっかりドレスアップして、さしずめ男娼の舞踏会にお出ましになるってところじゃないか」



バーバラ・ヴァイン『長い夜の果てに』(榊優子 訳、扶桑社ミステリー)

もっとも、「No Night Is Too Long」というタイトルが、リヒャルト・シュトラウスのオペラ『薔薇の騎士』からの引用であること……なのだから。

されど我とともにあらば──かく言うは我が心の惑いなるや?
長すぎる夜はあらじ!



『薔薇の騎士』オックス男爵の歌より

ここでもヴァインの「仕掛け」に翻弄される。

Rosenkavalier Suite / Salome

Rosenkavalier Suite / Salome