HODGE'S PARROT

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『パブリック・アクセス』 Public Access /1993/アメリカ 監督ブライアン・シンガー

パトリシア・ハイスミス的静かな狂気を湛えた作品。ブライアン・シンガーの長編第一作であるが、さすがに面白かった。

ストーリーはわりあいシンプルで、 ワイリー・プリッチャー(ロン・マークエット)という謎めいた男がアメリカの田舎町を訪れ、ケーブルテレビで個人番組を放映(パブリック・アクセス)。「町の問題点」を提起する。すると住民は電話等で「他者」の「問題点」を告発し始める。番組は住民の心を掴み、ワイリーは「(トリック)スター」になる。しかしその放送のため典型的なサバービアの町は悪意と疑心暗鬼が渦巻き、不穏な空気に包まれる。
「健全な」田舎者が一番病んでいる。それこそリンチの『ブルー・ベルベット』にも通じるサバービアの恐ろしさだ(もしかすると『ブルー・ベルベッド』へのオマージュなのかもしれない。挿入される50年代風の明るいポップスがこの上もなく「奇怪に」響く)。

この映画を観ながら思い出したのがウルトラセブンの『狙われた街』。登場人物の一人がちょっと頭のおかしな元町長で、すぐエイリアンの話をするから思いついたわけではあるが、まさしく「エイリアン」(よそ者)としてのワイリーが町を乗っ取り、町を不安と混乱に落とし入れる。
セブンではメトロン星人が「人間同士の信頼感を失わせる薬」を煙草に混入させるのだが、『パブリック・アクセス』では、住民同士に敵意を植え付けるのがケーブルテレビというメディア。メディアがまさにドラッグとして機能しているのだ(今ならネットの掲示板に匿名記事を書き込む心理がそれに相当するであろう。「他者」を攻撃しあげつらうのは一種の快感なのだ)。

ストレンジャー」(よそ者)であるワイリーの意図がなかなか掴めないのがいっそう不安感を誘う。しかも彼は殺人者であり、クールに人を殺す。
そう、確かに彼はクールなのだ。そして監督ブライアン・シンガーは、彼のクールな裸体も披露させてくれる──浅黒く、引き締まった美しい肉体。何よりワイリーの殺人シーンはとてもセクシーで、その殺人方法はとてもエグイ。つまりSMの事故死に見せ掛けるのだが、そのときのワイリーの表情は何だかゲームを楽しんでいるような不穏な昂揚を見せる。しかも普段クールにスーツを着ているワイリーが、このときばかりはタートルネックのセーターを着ている──まるで彼自身が勢きり勃った男根のよう。そしてこのときバックに流れる音楽がグリークの『ペールギュント』。ワイリーの不敵な哄笑は音楽と響き合う。

そんなわけで僕はワイリーを演じるクールな男、ロン・マークエットに魅了されたのであるが、IMDbを見ると、彼は1995年に自殺した。