HODGE'S PARROT

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『メメント』 Memento /2000/アメリカ 監督クリストファー・ノーラン

真っ青なシャツにハニーブロンドのヘアが映える。高級スーツに身を纏ったガイ・ピアーズは実にクールだ。一方、白いボクサーショーツ一枚で、引き締まったタトゥーだらけの肉体を晒しているガイ・ピアーズもたまらない。
この映画では、そんなハンサム・ガイの着衣/裸体を、まるでゴヤの二つの有名絵画を「並び見る」かのように楽しませてくれる。

主人公レナード(ピアーズ)は前向性健忘症という特殊な記憶障害のため、10分前の記憶さえ保てない。要は10分後にほとんど別人格と化し、10分前の「私を見る」ことも叶わない。そんな記憶障害者の「失われた時を求めて」、複雑に再構築されるドラマに、観者は「向き合わ」なければならない。

ビル・S・バリンジャーの小説を映画化したらこんなふうになるだろう、という趣向。もちろん「小説」に比べ情報量が格段に多い「映像」で「これ」をやるのが凄い。時制をバラした独特の構成がかなりの集中力を課すが、サスペンスはラスト(あるいは冒頭の)のカタストロフを目指し加速してゆくのでまったく目が離せない。しかも「鏡」のダブル(複数性)前向性健忘症という症例の「複数・回・性」が見事にリンクされている! 
似たような感覚の映画として『エンゼル・ハート』や『予告された殺人の記録』を思い出す。

そしてこの映画の中で重要なファクターとなるのがポラロイド写真とメモというテクスト──身体に彫られたタトゥー。ダイナミックに時間を構成する映画の中で、写真と文字というスタティックなメディアが巧に使用される。主人公は写真とテクストによって現実を確認し経験を保持する。それらは「偽りの現在でもあり、不在の徴しでもある」(スーザン・ソンタグにもかかわらずだ。