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『クルーエル・インテンションズ』 Cruel Intentions /1999/アメリカ 監督ロジャー・カンブル

これはメチャクチャ好きな映画だなあ。しかも文句なしの傑作だと思う。それなのにあまり映画ファンに言及されないのはまったく解せない。コメディ・タッチだから? ティーンズ映画だから?

言わせてもらえば、コメディは最も芸術的センスが必要なものだし、こういった「笑わせてくれる映画」は、スカしたアート系や高邁な思想を持った説教型政治映画、深淵な哲学を孕んだ睡眠学習映画と比べても、全然引けを取らないと思う。

いやあ本当に面白い。何しろ原作はラクロの『危険な関係』。フランス貴族の意地の悪い性的ゲームを、NYの高校生たちのライフスタイルに置き換え、ご機嫌なラブ・コメに仕立てている。あのロココの精神的遊戯性を現代に甦らせるならば、やっぱり舞台は高層ビルの立ち並ぶマンハッタン、そしてスポーツ・カーを乗り回し、アメフトに興じ、ネットで遊び、デザイナーズ・ブランドの服を身に纏ったクールなハイスクールボーイズ&ガールズが適役でしょう。

グレン・クローズら名優たちの豪奢なコスプレが目を引くスティーブン・フリアーズ版『危険な関係』も、言うまでもなく素晴らしいが、僕は『クルーエル・インテンションズ』の方が断然好きだ。
その一番の理由は何と言ってもそのコメディのセンスに痺れたからだ。僕は悲劇よりも喜劇に「カタルシス」を感じてしまう。

で、他の理由と言えば、もちろんライアン・フィリップの憎らしいまでの色男ぶり。フリアーズの方では主役はグレン・クローズであるが、こちらではライアンにフォーカスが当たっている。もちろん脱ぐ(いい体してるぜ、このヤロー♪)。そして設定が現代アメリカなので、黒人やゲイ(IMDb のプロット・キーワードにはgay-football-player なんてのもある。ま、gay-slur もあるが)も登場する。

それにしても心憎いのは、電話はもちろんインターネットやEメールまでが登場するにもかかわらず、重要な場面では「手紙」が使用されることだ。これは原作の「書簡小説」への敬意でなくてなんであろう。実際、あのシチュエーションでありながら──「ファック」や「アス・ホール」という言葉が乱舞する──驚くくらい原作に忠実な展開になっている。

DVDのメイキング篇で誰かが言っていたように、この映画はまさに、美しいセット、美しい若者たち、しかしストーリーは醜い──だからこそ素晴らしく面白いのだ。