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『ユージュアル・サスペクツ』 The Usual Suspects/1995/アメリカ 監督ブライアン・シンガー

ユージュアル・サスペクツ』は、「犯罪者」の精神的葛藤を見事に描き切ったネオ・ノワール映画の傑作である。だからある意味この映画を紹介するのは、容易い。例えば中条省平が「フィルム・ノワール」の定義として述べたことを引用すれば事足りる。すなわち

フラッシュ・バックや主人公のモノローグを多用することで語法や構成を複雑化しようという形式上の意志が顕著なこと

安原顕編『ジャンル別映画ベスト1000』(学研M文庫)

ということだ。

しかしこの映画の見所は、単にジャンルの「定義」に則り、小手先の器用さを示しただけではない。「犯罪者」という「マイノリティ」の「目線」が重要なのだ。

2003年6月26日、アメリカの最高裁判所(Supreme Court)はテキサス州ソドミー法、つまり同性愛行為を犯罪と見なす州法に対し違憲判決を下した。これにより、アメリカ国内において、同性愛者は「Usual Suspects」としての地位を返上した。

同性愛者であることを公言しているブライアン・シンガーはまさに「Usual Suspects」の一員であった。不条理な運命に弄ばれる「犯罪者たち/男たち」の姿はアイロニカルな自虐を孕んでいる。彼らは仕事中だろうが睡眠中だろうが食事中だろうが、いきなり警察に踏みこまれ、逮捕拘留され、「コック・サッカー」──言うまでもなく gay-slur としても使われる言葉だ──と言わされる。
もっとも「彼ら」も負けてはいない。案外したたかでずる賢い。彼らはすぐに心を通い合わせる「仲間」となり大仕事に打って出る。個々の「犯罪者」が集団としての「犯罪者たち」になり、集団としての「強さ」と「弱さ」を露呈しつつ、各メンバーはそれぞれ破滅への道を歩んでゆく。

秀逸なのは、唯一カタギの人物=女と交流のある男ディーン・キートンが元刑事──つまり「Usual Suspects」の天敵──であり、彼には黒幕として登場するカイザー・ソゼの影がチラつくことだ。この映画では「フィルム・ノワール」の必要条件を満たす「ファム・ファタル」は登場しない──登場するのでは、と思わせるだけだ。代わりにカイザー・ソゼという「オム」が「裏切り者」として、そしてこの映画のミステリー的な着地として、最後に華々しく登場する。あまりにも鮮やかな幕切れに、ため息が出る。