HODGE'S PARROT

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『誘う女』To Die For/1995/アメリカ 監督ガス・ヴァン・サント

 ま、ゲイのガス・ヴァン・サントが「ストレート」を売りにした映画をつくるわきゃないな。なんといってもカメラがエロティックに舐めまわすのは、ホアキン・フェニックスのスキニーな裸体の方だし。

女の自意識過剰とそれに振り回される男の間抜けぶり。それがこの映画の悲喜劇の地雷であり、それが爆発するのは最初からわかっている。問題は、いつ、誰が、どういう風にその地雷を「踏む」のかだ。まるでルース・レンデルの『ロウフィールド館の惨劇』(A Judgement in Stone)をドタバタ笑劇として換骨奪胎したような、徹底的に意地悪く、馬鹿馬鹿しく、ブラックで、しかも楽しい作風。
……『ロウフィールド館の惨劇』のヒロインは文盲が原因で一家を皆殺しにした、では『誘う女』のヒロイン、スザーン・ストーンは何のために旦那を殺したんだろう(To Die For)……って言う感じに。

さらにこの映画を観て思いついたのが、戸梶圭太の小説。つまり男も女も「激安人間」ぶりを発揮していることだ。ニコール・キッドマンマット・ディロンホアキン・フェニックスもそういった意味で演技がとても上手い。(インチキ)ドキュメンタリー・タッチの構成も彼らの「安さ」が引き立つ。こういう手の込んだコメディは好きだな。

それにしてもニコール・キッドマンって演技の幅が広いと感心した。翌年にはヘンリー・ジェイムズ原作/ジェーン・カンピオン監督の『ある貴婦人の肖像』のヒロインも演じているし。こちらは「動」の「誘うミセス」に対し「静」の「奥方」役であるが、しかし「女性の自立&不幸な結婚」というテーマでは同じなのかもしれない。