HODGE'S PARROT

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『秘蜜』 BLACK ANGEL/2002/イタリア 監督ティント・ブラス

巨匠ティント・ブラスへの尊敬は足りない。絶対的に足りない。あの『カリギュラ』にしても『サロン・キティ』にしてもヴィスコンティに負けないくらい豪奢で気高い精神性を放っている。ただ、ヴィスコンティキッチュすれすれの様式美で映画を「芸術」足らしめるのに対し、ティント・ブラスはキッチュそのもののどぎつさで「芸術」を嘲笑する。

この『秘密』は、ヴィスコンティ映画のポルノ(が悪ければエロス)ヴァージョン──そしてこのDVDは「ヘア解禁ヴァージョン」。第二次世界大戦末期ファシスト政権下のヴェニスを舞台に、イタリア人の人妻リヴィアとドイツ人将校ヘルムートの性愛が描かれる。
そう、まさにラブ&セックスの話なのだ。凝ったストーリー展開は必要ない。ハンサムな軍人にメロメロになり、股を広げる女がいるだけだ。そこに俗悪なセットと俗悪な衣装、そして俗悪な映画的意匠が、ラヴ・ホテル的ファンタジーを際立たせる。

ファシズムとは演劇である」(ジャン・ジュネ


もちろん僕もメロメロになった。ナチ親衛隊ヘルムート中尉を演じるガブリエル・ギャルコ(ガルコ)にだ。ナチの黒い制服にブロンドの髪が映える──短く刈り上がった後頭部からうなじへのライン。灰色の冷酷そうな眼、下品な笑いを発する薄い唇、髭剃り跡の青い肌。完璧に制服を着込み──艶やかに輝く黒いブーツ、黒いベルト、そしてそれらをすべて脱ぎ捨てる。

たしかに女の方が露出度が高い。クールベの絵を見ているかのような生々しいデルタと尻が何度も画面を横切る。しかしギャルコも全裸を披露してくれる──引き締まった水泳体型だ(『アメリカン・ジゴロ』のリチャード・ギアが最高だと思っている外専ゲイの諸君にもちょっと見て欲しいなっていう感じ)。海中でのセックス・シーンはなかなかそそる。また娼館における乱交シーンは、ヴィスコンティ地獄に堕ちた勇者ども』における突撃隊の同シーンを思わせる豪奢さだ。

しかしこのポルノグラフィーが何よりも「豪奢」なのは、戦争という社会状況や歴史させも、二人の官能を燃えあがらせるための「セット」になっていることだ。結果、どんな「反戦映画」よりも「反戦」を主張している。

名場面は、リヴィアとヘルムートがセックスをした後、二人がトイレに入り用を足すところ。最初にリヴィア、次にヘルムート。ヘルムートが便器に向かい半ケツを晒しながら立ちションしているとき、リヴィアは後ろで「平和ね」と呟く。その後もう一度ヤルのだが、今度はヘルムートはリヴィアの尻に唾を付け、犯す。そのアナル・セックスの最中にヘルムートは「世の中全部くたばればいい、ヒトラームッソリーニスターリンも」と叫ぶ。戦争なんかしているよりも「尻に酔って」いるほうがずっといい、と正直に──男らしい姿態のまま、男らしい運動を繰り返しながら──表明する。

ティント・ブラス流の「反戦」は説得力と重みがある。残念なのは、この映画はR-18指定なので教育用に使われないということだ。