HODGE'S PARROT

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「反逆的であったが、そのくせ無力」だから”People United Will Never Be Defeated!”


People United Will Never Be Defeated Winnsboro

People United Will Never Be Defeated Winnsboro


フレデリック・ジェフスキー(Frederic Rzewski、b.1938)の《「不屈の民」変奏曲》を久しぶりに──全曲、聴きとおした*1。主題は平明で親しみやすくメロディックなのだが、それが約一時間にもおよぶ「天をも揺るがすような、ロマン主義的なヴィルトゥオーソのスタイル」(アレックス・ロス)で展開される36の変奏曲は、そう気安くは聴けない。しかも、その主題はチリのプロテスト・ソング『不屈の民 El pueblo unido jamás será vencido』である。ジェフスキーの明確な左翼的立場を表明した明確に政治的メッセージが込められた音楽である。さらに個人的な記憶が──ピアノを習っていたころ全音楽譜の「上級・第6過程」の近現代に、ノルドグレンの《怪談によるバラード》と並んで、その見知らぬ作曲者名と見知らぬ作品名が屹立していた。
でもやっぱりいい曲だな。印象的な短調のメロディーが、複雑で様々なピアノ技法を駆使して変奏されていき──といっても「いわゆる現代音楽風」ではなく、どちらかといえばベートーヴェンの《ディアベリ変奏曲》みたいな──クライマックスを築いた後に、素朴なメロディが優しさを伴って回帰される。それが普通に感動的だった。
こんな曲である。
People United Will Never Be Defeated! Part 1 of 8

クーデター後ただちに、陸軍のアウグスト・ピノチェト、海軍のホセ・トリビオ・メリーノ(José Toribio Merino)、空軍のグスタボ・リー(Gustavo Leigh)、国家憲兵隊のセサル・メンドサ=ドゥラン(César Mendoza Durán)を構成員とする軍政評議会が発足した。

政権を握った軍部はすさまじい「左翼狩り」を行い、労働組合員を始めとして多くの市民が虐殺され、その中には人気のあったフォルクローレの歌い手ビクトル・ハラもいた。ハラが殺されたサッカースタジアムには、他にも多くの左翼系市民が拘留され、そこで射殺されなかったものは投獄、あるいは非公然に強制収容所に送られた。

前年にノーベル文学賞を受賞した詩人パブロ・ネルーダ(チリ共産党員であった)はガンで病床にあったが、9月24日に病状が悪化して病院に向かったところ、途中の検問で救急車から引きずり出されて取り調べを受けて危篤状態に陥り、そのまま病院到着直後に亡くなった。



チリ・クーデター

元の”¡El pueblo unido, jamás será vencido!”は、こんな曲である。

ロックフェラー委員会のもっとも痛烈だった見解の一つは、結局のところ、アメリカがこれだけの資金を投入し、苦心惨憺しながら、「チリにはソ連のみるべき軍事的展開(ミリタリー・プレゼンス)の脅威はこれまで何一つ存在しなかったし、またアジェンデ革命の輸出には限界があり、しかも革命モデルとしての価値はそれ以上に限界があった」という判断である。
今日までCIAはロックフェラー委員会の判定に反論しつづけてきた。ラテン・アメリカの本土にはソ連の影響力が確立されつつあるという重大な脅威があったし、チリはアジェンデ打倒によって救われたと主張している。ところがこれは、議論の余地なき事実無根の主張である。極右的な軍事評議会や、”私有財産”が大好きでビッグ・ビジネスの支持する陸軍司令官アウグスト・ピノチェトがアジェンデから権力を奪った際、引き続き起こった事態をみれば納得がいく。軍事評議会が権力を掌握して三カ月たらずのうちに、サンチャゴをはじめ全州郡に政敵を拷問する特別監獄がつくられ、労働組合は禁止、新聞も検閲を受けるようになった。アジェンデ政権下では、そのような抑圧や規制はまったくなかった。



ブライアン・フリーマントル『CIA』(新庄哲夫 訳、新潮社) p.84-85 *2

フレデリック・ジェフスキーはもともと前衛的な手法を用い、音楽上の実験を次々と成し遂げた。三橋圭介は『クラシック音楽の20世紀 作曲の20世紀』*3で次のように述べる。

……このようななかで、ジェフスキーは実験作家としてユートピア的な芸術の社会化をめざした《サウンド・プール》(1969)を作曲する。そして72年、ニューヨーク州アッティカ刑務所の暴動に参加した囚人の声明をテクストにした《カミング・トゥゲザー》と《アッティカ》によって明確に社会派の作曲家として頭角を現す。しかし、これ以降、政治とのかかわりあいをもつカーデュー同様、実験的手法を「反逆的であったが、そのくせ無力」として放棄し、ヨーロッパの伝統的な技法とコンテンポラリー・ジャズやポピュラー・ソング、または民族的な素材を結びつけて、親しみやすい音楽の創造へと転換を図る。その結果、75年のチリの革命歌を主題とした《不屈の民》変奏曲や、79年の囚人歌にもとづく《ロング・タイム・マン》と結実する。

Pettinellis - El Pueblo Unido - Viña del Mar 2004




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*1:演奏はオランダのピアニスト、ラルフ・ファン・ラート/Ralph Van Raat

*2:

CIA (新潮選書)

CIA (新潮選書)

*3:

作曲の20世紀2 1945年以降(クラシック音楽の20世紀)

作曲の20世紀2 1945年以降(クラシック音楽の20世紀)