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アルネ・ヤコブセンのSASロイヤルホテル



SASロイヤルホテル(1960)の場合、ヤコブセンは外側に見える窓枠の幅を、とにかく薄くしたかったようです。しかし当時の技術では、彼の望むようなものを作ることは難しかった。当然建材メーカー側から作れないと言われましたが、彼はとにかくやってみてくれと強引に押し通したそうです。それでメーカーが作ってやってきたのですが、やはり薄さが足りなくて、結局3回ほどこのやりとりを繰り返し、結局彼の望んだ今の幅になったのです。
つまり、技術上困難なデザインでも彼は諦めず、強引にでも作らせながら、何とか解決の方法を探っていく才能があったのです。



キェル・ヴィンダム「アルネ・ヤコブセンは建築家である」*1

コペンハーゲンに行くときに、「不法侵入」と間違えられずに、そこにある建築物──美術館のような公共の施設ではなくて──を思う存分見学し写真を撮るのはどうしたらいいか考えた。答えは簡単だった。そこの客(ゲスト)になればいい。というわけでデンマークを代表する建築家&デザイナーであるアルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen、1902 - 1971)の設計によるSASロイヤルホテル(現 Radisson Blu Royal Hotel)に泊まった。
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SASロイヤルホテルは1956年から1960年にかけて建てられた。高層建築が規制されているコペンハーゲン市内にあって、市庁舎に次ぐ22階の高さのモダンな建築物は現在でも十分に異彩を放っている。伊藤大介『北欧の建築遺産』によれば、この「アメリカ風」の建築は──各階の連続ガラス窓が切れ切れに空と雲を映し出しているホテルの姿は──当初、街並みの調和を乱す醜い近代建築として相当な批判を浴びたという。それは1952年にニューヨークで実現した初のカーテンウォール工法による高層ビル、レヴァーハウス(Lever House)を彷彿させたのである。
しかし伊藤は述べる──戦後のヤコブセンのデザインを考えるとき、アメリカとのつながりを無視することはできない、と。

アメリカの建築界を振り返ってみると、戦前にドイツのバウハウスに結集してモダニズムを担ったグロピウスやミース・ファン・デル・ローエといった建築家たちは、ナチスに追われて1930年代後半に次々とアメリカに移住して、新天地で教育や実作に携わった。結果的にそれが、戦後のアメリカが高層オフィスビルを林立させた都市を実現させて世界の建築界の中心となる下地となった。ヤコブセンはこうした動きを踏まえて、コペンハーゲン中心部にSASロイヤルホテルをもち込んだのである。その”アメリカ風”の姿は、世界の大都市を席巻しつつあった”インターナショナル・スタイル”でもあった。



伊藤大介『北欧の建築遺産』(河出書房新社) p.156 *2

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そしてエントランスロビー。各所にはヤコブセンの代名詞ともいえる「エッグチェア」や「スワンチェア」が配置され、二階へつながる細い線材による吊り構造の螺旋階段がとても美しい。宿泊客という特権を利用して、あちこちの椅子に座ってみては『地球の歩き方』を拡げて、これからどこへ行こうかな、と考えていた。
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宿泊客なので廊下でも客室でもシャッターを押す──ここにもヤコブソンのデザインの一端が伺えるだろう(多分)。
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アルネ・ヤコブセン研究者のキェル・ヴィンダム*3は述べる。建築史から見たヤコブセンの位置づけは、端的に言えば20世紀のデンマークにおけるモダン建築*4の最高峰です、と。そしてヤコブセンは建築だけではなく、ランドスケープ・デザインから家具や照明に至るまでデザインすることで知られていますが、これは当時の建築家としては珍しいケースでした──

そこがヤコブセン作品の特徴の一つでもありますが、とにかく建築に関わるものは全部仕切りたかったようです。「SASロイヤルホテル」がよい例でしょう。このホテルでは「スワン・チェア」(1958)の脚をブロンズ色にするなど既存の家具を特別に仕様変更して使用したものもありますが、基本的に家具はもちろんのこと、照明やドアノブ、レストランで使う食器類やキャンドルスタンドまで、事実上建築に関わるあらゆるものすべてをデザインしました。
既存のものでは満足できなかった、というよりも、むしろ彼は建築を一つのキャンバスのように考えていたようです。つまり絵画と同じことで、キャンバスの中に描くものは自分で描く、といった感覚。彼の頭の中では建築、家具、照明、ランドスケープなどと分けずに、一体のものとして捉えていたのです。



キャル・ヴィンダム「アルネ・ヤコブセンは建築家である」

*1:『X-Knowledge HOME』vol19 より

*2:

図説 北欧の建築遺産 (ふくろうの本)

図説 北欧の建築遺産 (ふくろうの本)

*3:Kjeld Vindum http://arkitekturtv.dac.dk/channel/1030581/kjeld-vindum 建築雑誌『S-KALA』の編集長として北欧の建築作品を紹介している。

*4:アルネ・ヤコブセン関連でまさに『Arne Jacobsen: Absolutely Modern』というタイトルの本があった。カヴァーはもちろんSASロイヤルホテルだ。

Arne Jacobsen: Absolutely Modern

Arne Jacobsen: Absolutely Modern

  • 作者: Arne Jacobsen,Kjeld Kjeldsen,Poul Erik Tojner
  • 出版社/メーカー: Louisiana Museum of Modern Art
  • 発売日: 2003/06/01
  • メディア: ペーパーバック
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