HODGE'S PARROT

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2010年の音盤を振り返る


いまだに僕はカタチあるモノとしての「ディスク」にこだわっている。なので2010年に聴いた新譜の(カタチある)音盤の中から印象に残ったモノをピックアップしておきたい──本当は、ここ数年いつも書いているが、買って聴いたときにすぐに(初めてその音楽に接した新鮮な気分のときに)メモしておきたかったのだが、昨年はブロガー休職中だったので。

Prelude/Choral Et Fugue/Les Djinns

Prelude/Choral Et Fugue/Les Djinns

ベルトラン・シャマユ(Bertrand Chamayou)によるセザール・フランク集。このディスクが素晴らしいのは、《前奏曲、コラールとフーガ》《前奏曲、アリアと終曲》といったフランクの代表的なピアノ独奏曲に加え、やはり有名な協奏曲的作品《交響曲変奏曲》、そして──何といっても交響詩《魔人》、それにピアノとハルモニウム版による《前奏曲、フーガと変奏曲》という僕の大好きな曲が含まれていることだ!
このディクスには、フランクのピアノ音楽の魅力が凝縮されている。ピアノを愛する人は、ぜひこのディスクをしっかりと手に取って聴いてほしい。
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Schumann: Piano Works

Schumann: Piano Works


2010年はロベルト・シューマンの生誕200周年の年だった。旧譜の再発売も含めてシューマンの作品のディスクが数多くリリースされた。その中にあって、このピョートル・アンデルジェフスキ(Piotr Anderszewski)のシューマン録音はひときわ輝いていた。
収録曲は、

  • フモレスケ
  • ペダルフリューゲル(ペダルピアノ)のための練習曲
  • 暁の歌

これ……ま、《フモレスケ》はそれなりに知られているが《クライスレリアーナ》や《謝肉祭》といった楽曲と比べると地味な感じ。でも、このアンデルジェフスキによる《フモレスケ》がすごくよかった。なんとなく抒情的…なんかではまったくなく、《謝肉祭》にも匹敵するような、明朗で快活、ときにヴィルトゥオジックな音響に圧倒された。しかもこの「抒情的な」音楽がもっている──抒情的な雰囲気というものの中に隠された──堅牢な構造を明快に、まるでスコアを眺め見ているかのように、聞き伝えてくれる。
《フモレスケ》で行った手順を、今度は、シューマンの「未知の」作品《ペダルピアノのための練習曲》でも披露してくれた。足鍵盤を要する対位法的な──ロマンティックというよりは、机上の理論的な、晦渋な──「練習曲」と思われていた作品を、アンデルジェフスキは自らアレンジして、このこれまでほとんど演奏されることのなかった作品に新たな光を当ててくれた。その新鮮な音楽は、まるでシューマン・イヤーに新たな傑作が発見されたかのようだ。
《フモレスケ》、《練習曲》の後に、シューマンの最晩年の作品《暁の歌》が演奏される。そのあまりに絶妙な響きに、心が揺り動かされた……。
アンデルジェフスキは、ベートーヴェンの大曲《ディアベリ変奏曲》やJ.S.バッハのクラヴィーア組曲シマノフスキの長大で複雑で最高度のテクニックが課されるピアノソナタでも、抜群のテクニックと音楽的センスで、それぞれの楽曲がもっているユニークな構造を知らしめてくれた。このシューマンもそうだ。次はバッハの《ゴルトベルク変奏曲》を期待している。


Schumann: Complete Works for Piano & O

Schumann: Complete Works for Piano & O

シューマン・イヤーに相応しく世界発録音を含む『ピアノと管弦楽のための作品全集』。ピアノはレフ・ヴィノクール(Lev Vinocour)、ヨハネス・ヴィルトナー指揮&ウィーン放送交響楽団。このアルバムでは、ピアノ協奏曲イ短調 Op.54 の原曲である《幻想曲イ短調》を聴くことができるのが貴重だ。もっとも協奏曲と幻想曲ではさほど曲調が変わっているわけではなく、むしろ幻想曲ではカデンツァが途中で途切れた感じがするので、やはり協奏曲の完成度には適わないないなと思った──レオニダス・カヴァコスシベリウスのヴァイオリン協奏曲の初版で聴かせてくれた「差異」を楽しむまでには至らなかった。


Davidsbundlertanzer Op.6  Fantasie Op.7

Davidsbundlertanzer Op.6 Fantasie Op.7

内田光子によるシューマンの《ダヴィッド同盟舞曲集》《幻想曲ハ長調》。久しぶりのシューマンの録音で期待通りの演奏だった。ただ、シューマン・イヤーでこの有名曲2曲だけというのは、気持ち的にちょっと…っていう感じかな。


期待の新進演奏家シリーズ ニコラス・アルトシュテット

期待の新進演奏家シリーズ ニコラス・アルトシュテット

  • アーティスト: ニコラス・アルトシュテット,ジョゼ・ガラルド,ピエルネ,ブーランジェ,ダンディ
  • 出版社/メーカー: Naxos
  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: CD
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ニコラス・アルトシュテット(Nicolas Altstaedt)によるフランス・チェロ作品集。ナクソスの「期待の新進演奏家リサイタル・シリーズ」の一枚だが、期待以上のディスクだった。収録曲は、

どの曲も初めて聴いたのだが、どの曲もとても印象的だった──アルトシュテットのチェロの音色が魅力的で、とても美しく響いていた。とりわけ教師として名高いブーランジェの曲にグッときた。こういう音楽に出合うことがあるから、これからもナクソスの新譜を頻繁にチェックしておきたい。ナクソスには今後も大いに期待したい。


Szymanowski: Symphony No.3

Szymanowski: Symphony No.3 "Song of the Night", Violin Concerto No.1

現代音楽作曲者にして指揮者であるピエール・ブーレーズがカロル・シマノフスキの作品を録音した。曲は交響曲第3番《夜の歌》とヴァイオリン協奏曲第1番。ヴァイオリンがクリスティアン・テツラフ、オーケストラがウィーンフィルブーレーズシマノフスキを……と最初はとても意外に思ったけれど、なるほどブーレーズに合っている──そういや、ブーレーズはちょっと似た感じのスクリャービンを得意にしていたし。
いまいちマイナーな感じのシマノフスキだけど、僕の好きな作曲家の一人なので、メジャーな演奏家がメジャーなレーベルからディスクを出してくれたことは喜ばしい。この勢いでオペラ《ロジェ王》を、シマノフスキの「意図通り」の官能的な演出で観てみたい。


流れよ、わが涙~ダウランドの音楽

流れよ、わが涙~ダウランドの音楽

『流れよ、わが涙〜ジョン・ダウランドの音楽』。これは……ジャケ買い。このディスクはオムニバスで演奏家や録音も様々なんだけど、そんなことはどうでもいい。何よりこのジャケットの写真を見ながら、《涙のパヴァン》や《グリーンスリーヴス・ディヴィジョンズ》、そして《流れよ、わが涙》などを聴いていると、グッときてしまう──このジャケットの人はどうして泣いているのだろう、と。音、だけではない「何か」を感じる。

今後もこういった「ディスク」にめぐり合いたい。


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