『レコード芸術』2009年7月号にノルウェーのピアニスト、レイフ・オーヴェ・アンスネス(Leif Ove Andsnes、b.1970 - )のインタビュー記事が載っていた。とくに、その中で、南アフリカのヴィジュアル・アーティスト、ロビン・ロード(Robin Rhode、b.1976)とのコラボレーション”Pictures Reframed”の話題に興味を惹いた。ロビン・ロードがデザインしたステージの中で、アンスネスがムソルグスキーの《展覧会の絵》を演奏するというものだ。
アンスネスによれば「夢のようで野心的なもの。6面か7面のスクリーンをステージに吊って、絵画的なもの、彫刻的なもの、ピアノの背後にはフィルムだけを投影する」ことになるという。アンスネスのオフィシャルサイトでもアナウンスされているが、なによりも YouTube のEMI のチャンネルでメイキングビデオが公開されていた。
Leif Ove Andsnes & Robin Rhode - Pictures Reframed (HD)
これは面白そう。音楽も、ムソルグスキーの原曲にアンスネスが部分的にアレンジしているようだ。ロビン・ロードに関しては↓の動画が詳しい。
Catch Air: Robin Rhode @ Wexner Center
DVD”Pictures Reframed”の発売が待ち遠しいところ*1。で、そんなアーティスト、レイフ・オヴェ・アンスネスのディスクを一枚。とびきりモダンなやつを。
- アーティスト: Shostakovich,Britten,Enesco
- 出版社/メーカー: Angel Records
- 発売日: 1999/11/02
- メディア: CD
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収録曲は、
- ベンジャミン・ブリテン : ピアノ協奏曲 Op.13
- ドミトリ・ショスタコーヴィチ : ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲ハ短調(ピアノ協奏曲第1番) Op.35
- ジョルジュ・エネスコ : 伝説曲(トランペットとピアノのための)
共演は、パーヴォ・ヤルヴィ指揮&バーミンガム市交響楽団、ホーカン・ハーデンベルガー(トランペット)。
ブリテンのピアノ協奏曲は爽快の一言につきる。自身ピアノの名手でもあったブリテンだけあって、どこを聴いてもピアニスティックな効果に溢れている。めくるめく音の洪水。オーケストラの色彩感もさすがブリテン、とても心地よい。プロコフィエフのピアノ協奏曲──とりわけ第1番や第3番──が好きな人ならば絶対に気に入るだろう。ライブ録音で、アンスネスのピアノも絶好調。
ショスタコーヴィチの作品にはマルタ・アルゲリッチやイェフィム・ブロンフマンによる名盤もあるが、アンスネスもそれらに負けてはいない。フットワークのよさ、スピード感、容赦のない「変則ギア」、ジャズっぽいノリに関してはアルゲリッチやブロンフマンを上回るかもしれない。とにかく痛快な演奏だ。
そしてエネスコの《伝説 Légende》。このアンスネス盤で初めて知った曲なのだが、これが凄くよかった。ブリテンの曲には作曲家自身の指揮とリヒテルによる定番の録音があるし、ショスタコも上記の著名ピアニストらによるディスクがある。でも、このエネスコの曲は、アンスネス盤を聴かなかったら、もしかすると、一生聴かなかったかもしれない──もし、そうであったら、とても残念に思う。喩えていえば、クラリネットという楽器(の音色)が好きなのに、ブラームスの《クラリネット・ソナタ》を聴かないで一生を終えてしまうくらいに。
トランペットが物悲しく歌う。ときに叫ぶ。そこにピアノが優しく寄り添う。エネスコの《伝説》は感動的であった。グッときた──目頭が熱くなるくらいに。
Giuliano Sommerhalder - Enescu Légende
*1:CD版『Pictures Reframed』のカップリングはロベルト・シューマンの《子供の情景》。
http://www.emimusic.jp/artist/andsnes/?id=55125