HODGE'S PARROT

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ジュール・バスティアン=ルパージュの『アキレスとプリアモス』



アリス・アデールのフランク作品集のカヴァーを飾っている、フランスの画家ジュール・バスティアン=ルパージュ(Jules Bastien-Lepage、1948 - 1984)。印象派風の風景画を主に描いている人なのかな、という印象を持っていたが、ネットで調べたら、すいぶんと官能的な肉体を──大胆に、あからさまに──描いていることが発覚した。
題して『アキレスとプリアモス』。

"Achilles and Priam" by Jules Bastien-Lepage



これは……。腕の血管が浮き出ているところが──それは「本当に」腕(だけ)、なのか──凄くリアルだ。この画家に対する印象が変わった(そうそうセザール・フランクの音楽って、やっぱりどこかセンシュアルなんだよね。言い忘れていたけれど)。

……プリアモスは馬車から地上へ跳び降り、その場に残されたイダイオスは、馬と騾馬とを迎えて待つ。
老王は、ゼウスの寵を受けるアキレウスが常時住んでいる陣屋へ歩んで行き、見れば中にはアキレウスの姿はあるが、部下たちは離れて坐っている。ただアレスの裔ともいうべき勇士アウトメドンとアルキモスの二人だけが、傍らに侍って甲斐甲斐しく立ち働いている。
アキレウスは飲み食いして丁度食事を終わったところ、食卓がまだ傍らに置いてある。大兵のプリアモスは誰にも気づかれずに中へ入ると、アキレウスの身近へ寄って、その膝にすがり、彼の手──多数のわが子を殺した恐るべき殺伐者の手に接吻した。その時、いうなれば突如激しい惑乱に襲われて故国で人を殺めた男が他国に逃れ、どこぞ裕福な男の屋敷にかくまわれた時、その姿を見たものがぎょっと驚く、正にそのように、アキレウスは神に見まごうプリアモスの姿を見て仰天した。




ホメロスイリアス (下)』(松平千秋 訳、岩波文庫) p.401-402