HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

アリス・アデールのフランク作品集


Chamber Music (Dig)

Chamber Music (Dig)

フランスのピアニスト、アリス・アデール(Alice Ader、b.1945 -)によるセザール・フランクの作品集を聴いた。
収録曲は、

アリス・アデールと言えば、最初に聴いたのが、ポルトガルの現代音楽作曲家エマニュエル・ヌネス(Emmanuel Nunes、1941 -)の《火と海の連祷 Litanies du feu et de la mer》だった。静寂と突然のノイズ、弛緩とダイナミズム──精妙なピアノの響きの移ろいを堪能させてくれた。次に聴いたのが、夭折した19世紀末の作曲家ギヨーム・ルクーの未完成のピアノ四重奏曲だった。その迸る情熱と溢れんばかりの「青春の」ロマンティシズムに深く心を動かされた。
ヌネスとルクー。前衛音楽家と世紀末の音楽家。通常は接点がなさそうであるが、アリス・アデールという優れたピアニストの演奏を介して聴くと、二人の音楽の持つ感覚表現に何か共通点があるように思えてならない。例えば、そこには受苦(パッション)と祈りがあるのではないか、と……苦悩に満ちながらも清朗な波……が。

そしてフランク。何度か書いているように、フランクの《前奏曲、フーガと変奏曲》は僕にとって最愛の音楽で──もちろん、ロベルト・シューマンの《クライスレリアーナ》やJ.S.バッハの《マタイ受難曲》も「最高に」素晴らしい楽曲なのであるが、そういった大曲ではなく、その凄さを説明する決定的な語彙も浮かばないのだが、それでもどーしても心動かされるという意味で「愛」という言葉を使いたい──このアデールの演奏を聴いて、とても気持ちのよい時を過ごすことができた。10分足らずの曲であるが、ここにこそ音楽を聴く歓びがある。
前奏曲、コラールとフーガ》も、素晴らしい演奏で、聴いていると、とくにコラールで、次第に感情が昂ぶってきた──あるいは感情の昂ぶりを経験した、と言うべきだろうか。多分、音楽には、神秘体験と似た感覚の法則があるのだろう。だからそれを伝える言葉は、音楽を体験した個々人によって千差万別であって、それはつねに楽譜から演繹されるとは限らない。個人的な体験と、どこかで結びつく。そのように思えてならない。


このアデールとアンサンブル・アデールによる演奏は、パリの IRCAM *1で録音された。そしてカヴァーで使用されている美しい絵画は、ジュール・バスティアン・ルパージュ(Jules Bastien-Lepage、1848-1884)の『La Nuit sur la lagune』という作品だという。ブックレットにはこの絵が一面に印刷されている。音楽を聴く前に、この青を基調とした絵画作品を見たことによって、ほんの少し、音楽の印象が変わったかもしれない。




[関連エントリー]