HODGE'S PARROT

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流れよ、我が涙



カウンターテナー、アルフレッド・デラー(Alfred Deller、1912 - 1979)の動画が YouTube にいくつか挙がっていた。デラーは、「カウンター・テノール」という声域を20世紀に復活──あるいは新生させた歌手だ。ベンジャミン・ブリテンのオペラ《真夏の夜の夢》のオベロン役はデラーの声を念頭において作曲された。
どれも素晴らしいのだが、とりわけグッときたのが、イギリスの作曲家ジョン・ダウランド(John Dowland、1563 - 1626)の《流れよ、わが涙》(Flow my tears)だ。この曲については、多分、フィリップ・K・ディックの『流れよ我が涙、と警官は言った』(Flow My Tears, the Policeman Said)との関連で知っている人も多いと思う。リュートの爪弾きを伴奏に哀愁を帯びたメロディーが連綿と歌われる。本当にいい曲だ。
Alfred Deller canta "Flow my tears"


デラーの他にも、アンドレアス・ショル/Andreas Scholl が実際に歌っている映像もあって、これも素晴らしかった──その表情も含めて、とても聴き応えがある。
また、こちらの動画では、背景に(BGVとでもいうのだろうか?)、ラファエル前派の画家ヘンリー・ウォリス(Henry Wallis、1830 - 1916)の『チャタートンの死』が使われていて、ああこれはいいな、と思った*1ダウランドの憂愁とウォリスの絵の薄闇が、なんだかとても合う。

Flow, my tears, fall from your springs!
Exiled for ever, let me mourn;
Where night's black bird her sad infamy sings,
There let me live forlorn.


Down vain lights, shine you no more!
No nights are dark enough for those
That in despair their lost fortunes deplore.
Light doth but shame disclose.


Never may my woes be relieved,
Since pity is fled;
And tears and sighs and groans my weary days
Of all joys have deprived.




Flow my Tears [Wikipedia]

見ろや、かの人の憂ひ顔、その胸のうち探り見よ。
打ち沈み、萎れ、絶え入らんばかり!




トマス・チャタトン『慈悲秀歌』(ピーター・アクロイド著『チャタトン偽書』より p.12*2


ルフレッド・デラーの歌声でもう一曲だけ。イギリスの民謡《グリーンスリーブス》を。あまりにも有名なメロディだけど、その素朴な音楽の持つ情緒に、やはりジーンとくる。背景にはジョン・ウィリアム・ウォーターハウス/John William Waterhouse の絵画作品が挿入されている。
Alfred Deller - Greensleeves


Lute Songs

Lute Songs

*1:現代音楽作曲家マティアス・ピンチャー/Matthias Pintscher は、この夭折の詩人にインスパイアされた音楽《トーマス・チャタトーン》を書いている。→ http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20080809/p1

*2:

チャタトン偽書

チャタトン偽書