- アーティスト:Vivaldi,Smith,Newman,Aradia Ens,Mallon
- 発売日: 2006/05/16
- メディア: CD
アントニオ・ヴィヴァルディの《スターバト・マーテル》RV.600 が、これほど悲哀に満ちて、そしてこれほど美しいとは思っていなかった。《四季》や、ヴァイオリンを習ったことがある人ならば必ず「ヴィブラートなしで」弾かされたことを思い出すであろう、あのヴァイオリン協奏曲イ短調 RV.356(《調和の霊感》)のヴィヴァルディが。この音楽に、僕は深く胸を打たれた。
Stabat mater dolorosa
iuxta Crucem lacrimosa,
dum pendebat Filius.
悲しみの母は立っていた
十字架の傍らに、涙にくれ
御子が架けられているその間
Vivaldi -Stabat mater
この音楽を聴いて、そして思い出した。川原泉というマンガ家が、他人の家族を攻撃していることを。何度でも思い出す。何度でも。音楽を聴くたびに。聖書を読むたびに。怒りが、込み上げてくる。震えるくらいに。
人々はイエスを引いて行く途中、田舎から出てきたシモンというキレネ人を捕まえて、十字架を背負わせ、イエスの後ろから運ばせた。民衆と嘆き悲しむ婦人たちが大きな群れを成して、イエスに従った。
イエスは婦人たちの方を振り向いて言われた。「エルサレムの娘たち、わたしのために泣くな。むしろ、自分と自分の子供たちのために泣け。人々が、『子を産めない女、産んだことのない胎、乳を飲ませたことのない乳房は幸いだ』と言う日が来る。
ルカによる福音書 23.26-29
なぜ、川原は他人の家族を攻撃するんだ?
なぜ、平気でヘイトスピーチを垂れ流すのだ?
なにが目的なのだ?
なぜ、自分たちの家族を攻撃しないのだ?
なぜ、他人の家族なのだ? なぜ、ゲイの子供がいる家族なのだ?
おまえは、いったい、何者なのだ?
おまえには、良心というものが、ないのか?
私たちは、善かれ悪しかれ、先入主に依存して生きることはできない。私たちはそのことを考えにいれて、正義と価値を測らねばならない。けれども、どんな尺度に従って測るのであろうか? すべての事物の尺度はどこにあるのだろうか?
存在することは一つの偶然なのか、恩恵なのか、または不幸なのか、私は知りたい。私たちのまわりにたくさんその例がある知性の棄却、放棄を私は軽蔑する。
私たちは、盲目的に欲することも望まなかった。こうした「至上の」不合理は、私たちの目には怪物として映り、私たちに恐怖をいだかせた。
そのころ私たちを救ったもの、私たちの現実の絶望をまだ条件的な絶望にしていたものは、まさしく私たちの苦しみであった。ほとんど意識されぬあの精神の尊厳が、不合理──一切のものが私たちをそこへ導こうとしていたのだが──に還元できないある要素が存在することを示すことによって、私たちの心を救ったのだ。
ライサ・マリタン『あるカトリック女性思想家の回想録 大いなる友情』(水波純子 訳、講談社学術文庫) p.118 *1
川原泉のお母さん、教えてください。ゲイの子供を持った母親は、バイキンの母親なのですか?
その存在は、恩恵なのですか? それとも不幸なのですか?
教えてください。自分と子供たちのために泣いたことがあるのならば。
あなたには、彼女の心を救うことが、できないのですか?
Antonio Vivaldi - Stabat Mater - Eja Mater, fons amoris
Quis est homo qui non fleret,
matrem Christi si videret
in tanto supplicio?
Quis non posset contristari
Christi Matrem contemplari
dolentem cum Filio?
涙をこぼさないものがあるだろうか
キリストの母が、これほどまでの
責め苦の中にあるのを見て
悲しみを抱かないものがあるだろうか
キリストの母が御子とともに
歎いているのを見つめて
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*1: あるカトリック女性思想家の回想録―大いなる友情 (講談社学術文庫)