HODGE'S PARROT

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フレディ・ケンプのシューマン



ロベルト・シューマンの《謝肉祭 Carnaval》 Op.9 は、もう聴き飽きたかな……なんて思っていたけれど、それでも聴きはじめると、これが凄くよくて、その小宇宙に引きこまれ、血沸き肉踊り、あっというまに30分が過ぎていた。すこぶる快感。やっぱり名曲だな、《謝肉祭》は。ピアニストはイギリス生まれのフレディ・ケンプFreddy Kempf、b.1977)だ。

Carnaval/Toccata/Arabesque/Hum

Carnaval/Toccata/Arabesque/Hum


フレディ・ケンプのピアノは非常にクリアーで、色とりどりの情景をリアルに聴かせてくれる。素晴らしい技巧の持ち主だ。とくに中低音域の響かせ方は絶妙で、充実した低音に内声が浮き出て、アクセントが効き、それによって賑やかな──四つの音符に基づく──音の戯れ(踊る文字)の一部始終が、リアルに、耳に飛び込んでくる。フロレスタンとオイゼビウスの「性格」の対比も明快だ。
《謝肉祭》の「パガニーニ」を聴くだけでケンプの技巧の冴えは証明されたものであるが、《トッカータ》 Op.7 で彼はそれをダメ押しする。シューマン的ピアニズムの試金石である《トッカータ》を、これほどまでにスマートにクールにスピーディに弾き切っている演奏は、そうは見当たらない。難曲=《トッカータ》の最上級の演奏の一つだと思う。やるなあ、フレディ!
そして、《謝肉祭》と《トッカータ》という、どちらかといえばシューマンの躁な部分が強調された作品に続いて、後半の二曲はオイゼビウス的な叙情性に富んだ楽曲が収録されている。《アラベスク》 Op.18 と《フモレスケ》 Op.20 。これらの曲でも、フレディ・ケンプのセンス──これも技巧の一種、あるいは真の技巧であろう──は見事だ。やはり音の響かせ方。強弱。テンポ。雰囲気。


ところで「センス」と言えば……このCDのブックレットには使用楽器(YAMAHA)と調律師の名前がクレジットされている。そういった情報を掲載しているのは、とても丁寧な作りだと思う。
それだけではない。さらに「Hair by Ilium」と「Clothes from Harrods, London」という情報も表記されている。多分、それらはフレディ・ケンプの行きつけなんだろう。

やるなあ、フレディ!