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「弦楽四重奏」を読んで聴く



書店で見かけ「あ、これはいい」とシルヴェット・ミリヨ著『弦楽四重奏』を買ってきた。

弦楽四重奏 (文庫クセジュ)

弦楽四重奏 (文庫クセジュ)


弦楽四重奏曲の起源から1960年代ぐらいまでの「現代」(原著は1986年刊)を概観できる──四重奏曲(弦楽四重奏だけではなくピアノ四重奏曲や弦楽五重奏曲なども対象になっている)に関する詳しい年表がついている。また、楽譜も多く引用されており、著者がその楽曲について「何を言っているのか」がとても理解しやすい。さらにクセジュというフランス系の本なので、ドビュッシーラヴェルは言うまでもなく、サン=サーンスフォーレといった作曲家やセザール・フランクとその後継者についてもかなりのページを割いている(ま、僕はドイツ音楽至上主義者であるけれども)。もっとも、この本における弦楽四重奏曲の「核」はやはりベートーヴェン、という感じだ。

というわけで、僕の好きな弦楽四重奏曲YouTube からいくつか選んでみた(シューマンやフランクの曲はこれといった演奏がなかったな)。


まずグリーグの第1番
Grieg String Quartet


メンデルスゾーンの第2番
Mendelssohn Quartet in A minor by ELYX Quartet - 1st mvt.


ヤナーチェクの第1番『クロイツェル・ソナタ
VICTORX - JANACEK - KREUTZER-QUARTET - 1-2 ZEMLINSKY-QUARTET


シューベルトの第14番『死と乙女』より第3楽章
Jerusalem Quartet, F. Schubert D 810 - part III (Scherzo)


ブラームスの第1番
Brahms Quartet No1. First Movement


クロノス・ クァルテットによる映画『レクイエム・フォー・ドリーム』の音楽
Requiem for a Dream - Clint Mansell


そして最後は、弦楽四重奏曲の中で、僕の一番好きなベートーヴェンの第14番から6-7楽章。これを聴くとすごくテンションが上がってしまう「恐るべき」音楽だ。カペー四重奏団というマルセル・プルーストとも関係のあった楽団による歴史的な演奏で。
Quatuor Capet - Lucien Capet

はじめてこの弦楽四重奏曲ベートーヴェンの第14番)を聴いたり、あるいは楽譜をざっと見たりすると、私たちはまず戸惑いを覚えるであろう。同時にさまざまな疑問が湧き出してくる。作曲技法あるいは音楽の複雑さをなぜこれほどまでに誇示しなければならないのだろうか? 聴覚の欠如により世の中で孤立し、音響の世界から遮断され、ペンによる作業のなかに逃避していった作曲家の探求の成果がおそらくここに現れているのであろう。音楽の流動性や、聴き手に安心感を保証する枠組みの不在、こうした特長はどこから生まれてきたのであろうか?


解答は作曲者自身によって提供されている。この弦楽四重奏曲には、これは「私の生涯のある一日の情景」を描写するための、「あちこちから寄せ集めてきた小品と断片から成る弦楽四重奏曲第十四番」であるというエピグラフが添えられている。したがって心理的なテーマが湧き出てくる。苦しい試練を受けている男が、憂鬱の夜を抜け出し、喜ばしい力へ、行動へ、戦闘へ、襲いかかってくる悪魔たちに対する勝利へと、上昇していく。





シルヴェット・ミリヨ『弦楽四重奏』(山本省 訳、白水社文庫クセジュ) p.72-73