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ジョン・エヴァレット・ミレイ展とバリー・ウインザー=スミス



ジョン・エヴァレット・ミレイ展@Bunkamuraザ・ミュージアムに行ってきた。《オフィーリア》を始め、↓ の Youtube で紹介されている作品の多くを見ることができて、とても満足した。
John Everett Millais


今回の展覧会でとくに印象的だった作品をいくつか挙げると、まず、殉教した聖人を描いた《聖ステパノ》(St Stephen)。オフィーリアとはまた違った死の描写に惹かれた。次に火事の現場から子供を助け出す消防士を描いた《救助》──人物たちが炎に照らされて赤く染まっている。この迫真的な「赤さ」に眼を奪われ、しばらく絵のまえから放れられなかった。それと《露にぬれたハリエニシダ》の幻想的な美しさにもグッときた。この3作品を見ることができて、ちょっとミレイへに対する個人的な評価が変わった感じだ──ま、《マリアナ》のような上流婦人(なんといってもあの「青」だ)や《木こりの娘》のような、こまっしゃくれたガキを描いた作品もそれぞれ美しく、楽しめたが。それと絵の「大きさ」でも印象が変わるな、と思った。例えば《ハートは切り札》なんかは画集で観たら「ふうん」という感想で終わってしまうだろうけど、実際にこの絵に直面すると、ほとんど等身大ともいえる絵の「大きさ」に圧倒された。ドレスの襞の描き方も素晴らしかった。

そういったわけで《オフィーリア》だけではないミレイの魅力を確認しようと図版を買ってきた──これが大正解だった。というのも、ジェイソン・ローゼンフェルドによる『ミレイとその時代、そして現代』というミレイ論が秀逸で、ミレイの影響を受けた現代の「アーティスト」たちの紹介にも目配りが効いていてとても参考になるからだ。例えば、

ピーター・ブレイクは、1968年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業したグレアム・オヴェンデンとともに1975年に田園生活主義者の会を結成し、ギルバート・アンド・ジョージは初期の作品においてミレイとラファエル前派の作品の「クレージーな色」を反映させ、同時期のルシアン・フロイドもまた、ラファエル前派の影響を強く受けている。そして、ミレイとラファエル前派の影響が最も具体的かつ効果的にあらわれたのは、この時代の映画やより広範な大衆文化であったろう。ピーター・ウィアーの映画『ピクニック at ハンギングロック』(1975)においては明らかに、ラファエル前派と唯美主義者が暗示した思春期の少女たちの倦怠感や純粋性の喪失、死への予感が見て取れる。この映画が描き出す複雑で、輝くようなヴィクトリア朝後半の官能的世界は、《春》(1865-59)のようなミレイの作品に大きく依拠しているのであり、映画の最後のモンタージュ部分にあらわれるフレデリック・レイトンの《灼熱の六月》(1895頃)の複製ショットは、世紀末という主題を扱った映画の成熟をはっきりと示しているのである。





ジェイソン・ローゼンフェルド『ミレイとその時代、そして現代』(展覧会図版より) p.23


とくにミレイやラファエル前派の影響を受けた「大衆文化」として挙げられた中で、バリー・ウインザー=スミス(Barry Windsor-Smith、b.1949)というコミック本のイラストレーターの絵にグッときた──《イカロスの墜落》という作品だ。この絵は僕がラファエル前派の画家たちの作品の美しさに惹かれながらも、しかしどこか物足りなさを感じていた何かを、改めてわからせてくれた。それは……ラファエル前派の画家たちが描くモデルがほとんど女性だということだ。
しかし《イカルスの墜落》は、ミレイの《オフィーリア》のような草花が茂る「舞台」で、描かれているのは、翼をつけた男性──しかも裸体なのだ。これだね。

「コミック・ブック」には疎いので、バリー・ウインザー=スミスについて調べたら『コナン・ザ・バーバーリアン』(Conan the Barbarian)の人だった。↓ のような画風であるようだ。

Opus: 2000 (Barry Windsor-Smith)
The Conan Chronicles: Monster of the Monoliths and Other Stories v. 3
The Conan Chronicles: Rogues in the House and Other Stories v. 2
The Chronicles of Conan: Song of Red Sonja and Other Stories v. 4 (Conan Chronicles)


ミレイの特筆べき影響はさらに、1970年代のコミック本のイラストレーションにも認めることができ、P.グレイス・ラッセルとイーストハム・テクニカル・カレッジ出身のバリー・ウィンザー=スミスのふたりが手がけた『コナン・ザ・バーバーリアン』(1970-74)をはじめとする作品は、そのような影響を受けたものとして、コミック本の画像の主流に新たな美的規準を打ち立てた。




ジェイソン・ローゼンフェルド『ミレイとその時代、そして現代』 p.24


[Barry Windsor-Smith]




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