HODGE'S PARROT

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シューマンのヴァイオリン・ソナタ全3曲



アルバン・バイキルヒャーAlban Beikircher、b.1967)による、ロベルト・シューマンのヴァイオリン・ソナタを聴いた。ピアノはベネディクト・ケーレン(Benedikt Koehlen)。

Schumann: Violin Sonatas

Schumann: Violin Sonatas


あまり録音がない第3番イ短調 Op.posth が目当てだった──まあ第1番、2番も決して「大人気」とは言えないがクレーメルアルゲリッチによる情熱迸る有名な録音を筆頭に、聴く機会はそれなりにある。しかし第1番イ短調 Op.105、第2番ニ短調 Op.121 もなかなか印象的な演奏だった。テンポはどちらかというと遅めで、フロレスタン的な面よりもオイゼビウス的な側面を聴かせる。だから第2番の三楽章 Leise, einfach なんかとてもいい気分にさせてくれる。個人的には、シューマンにはもっとガツンとくる激しさを求めているが、こういった演奏も悪くない。
で、第3番であるが、やはりもっと演奏されてしかるべき曲だな、と思う。悲愴感漂う第一楽章、フモールに満ちた第2楽章スケルツォ──この曲調、いかにもシューマンだ──、慰撫するような第3楽章インテルメッツォ、ピアノが活躍し、「ピアノ的」パッセージをヴァイオリンに奏でさせる不思議なフィナーレ。もともとこの曲は、シューマンブラームスとアルベルト・ディートリヒとともにヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムのために共同で作曲した《F.A.E.ソナタ》がもとになっている。シューマンは第二楽章と第四楽章を担当した──それを第3ソナタでそれぞれ第三楽章と第四楽に転用した。だからまとまりに欠けるきらいがあるのも否めない。
ただ、そういえば、《F.A.E.ソナタ》の「F-A-E」とはヨアヒムのモットーである”Frei aber einsam”(孤独だが自由だ、free but lonely)に因っている。そしてシューマンの「まとまりの悪い」ヴァイオリン・ソナタ第3番にも──第3番だけではなく第1番も第2番も、だ──”Frei aber einsam”が通低しているように思えてならない。そのモットーをこそ聴きたい、バイキルヒャーとケーレンのデュオで。


ちなみにアルバン・バイキルヒャーは、1729年製の Dominicus Montagnana を弾いている。