HODGE'S PARROT

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キンモ・ハコラの「緑の光線」



涼しげなジャケットに惹かれた──多分、冷ややかな肌触りの現代音楽じゃないかな、と。それに北欧フィンランドのレーベル、オンディーヌ(Ondine、水の精)であるわけだし……。というわけで、キンモ・ハコラ(Kimmo Hakola、b.1958)というフィンランドの作曲家のクラリネット協奏曲をメインにした作品集を聴いてみた。
サカリ・オラモ指揮&フィンランド放送交響楽団、カリ・クリーク(クラリネット)。



  • クラリネット協奏曲 (2001)
  • 緑に燃える黄昏/Verdoyances crépuscules (2004)
  • ダイアモンド・ストリート/Diamond Street (1999)


良い意味で裏切られた。マッシブなオーケストラにクラリネットが超絶技巧の限りを尽くす協奏曲は、バルトーク作品のような「暑苦しさ」を感じさせる──もちろん良い意味でね。多彩なアイデアを惜しげもなく投入し、約40分間、まったく飽きさせない。クラリネットは印象的なメロディを奏でる──ときに激しい息づかいで潰れたような音さえ出しながら。そういった意味で、かなり親しみやすい現代音楽だ。なんといっても作曲者はモーツァルトクラリネット協奏曲の影響を語っているのだから。
といってもだ、ジャズっぽいところや南米のダンス音楽のような「盛り上がり」はモーツァルトの音楽の持つ雰囲気とはまた違う。それよりもなによりも、いったいどこが北欧の音楽なんだ? という感じがする。
暑い、そして熱い。
しかも音響面においてキンモ・ハコラは──カイヤ・サーリアホ(Kaija Saariaho、b.1952)やマグヌス・リンドベルイ(Magnus Lindberg、b.1958)、そしてエサ=ペッカ・サロネンEsa-Pekka Salonen、b.1958)ら「Ears open! society」と呼ばれるフィンランドの現代音楽を担っているグループと同世代の彼は── 、このクラリネット協奏曲で、現代音楽ならではの「テープ」を使ったミュジーク・コンクレートを手がけているわけだが、その音は「人々の歓声」で、どう考えてもソリストの技巧を褒め称えているようにしか聞えない──まるでこの難曲を演奏してくれるソリスト=プレイヤーのために作曲者が予め感謝の意をプログラムしておいたかのように。実際、カリ・クリイック/Kari Kuriikku は素晴らしい技巧を聴かせてくれる。

《ダイアモンド・ストリート》もクラリネットのための音楽で、ハコラがこの楽器に並々ならぬ関心を持っているのがわかる。


そして《緑に燃える黄昏》だ。このアルバムのメインはなんといってもクラリネット協奏曲であるが、個人的には《緑に燃える黄昏》(英訳 Verdant Twilight)が一番気に入った。印象的なカヴァーはこの曲をイメージしているのだろう。薄明に現れる緑色の光線──Green flash。この色彩豊かな音楽は、解説によれば、ジュール・ヴェルヌの『緑の光線』にインスパイアされたようだ。

グリーンフラッシュ (英:Green flash)とは、太陽が完全に沈む直前、または昇った直後に、緑色の光が一瞬強く輝いたようにまたたく、非常に稀な現象。


地球の丸みに沿った大気によって、太陽光はプリズムによって曲げられるのと同じように屈折するが、大気の波長分散によって短い波長の光だけが届く条件で、大気のゆらぎによってまたたくものと考えられる。





グリーンフラッシュ [ウィキペディア]


《緑に燃える黄昏》は最初こそ賑々しく始まるが、次第に神秘的な雰囲気に包まれ、幻想味を帯びる。ピアノやハープといった楽器が微かに光彩を放つ。硬質で冷ややかな感触がとても心地よい。




[Kimmo Hakola]