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コリン・マシューズの《ブロークン・シンメトリー》



Matthews: Broken Symmetry

Matthews: Broken Symmetry


海王星までしかなかったホルスト組曲《惑星》に、「冥王星、再生する者」(Pluto, the renewer)を補完して話題になった*1、イギリスの作曲家コリン・マシューズ(Colin Matthews、b.1946)による管弦楽作品集。指揮は、やはり作曲家でもあるオリヴァー・ナッセン(Oliver Knussen、b.1952)で、現代音楽のスペシャリスト集団ロンドン・シンフォニエッタLondon Sinfonietta を首尾よくコントロールしている。


収録曲は、

  • 第4番ソナタ Fourth Sonata For Orchestra (1974-75)
  • サンズ・ダンス Suns Dance For 10 Players (1984-85)
  • ブロークン・シンメトリー Broken Symmetry For Orchestra (1991-92)


ダイナミック、かつ、スタイリッシュなサウンドだ。ストラヴィンスキーバレエ音楽シェーンベルクの《5つの管弦楽曲》Op.16 などを彷彿とさせる眩い色彩と野生的なリズム、そして変化に富んだ構成。颯爽としたスピード。躍動感。熱気。高度に専門的な、これまでの西洋音楽全体の流れを知って初めて理解可能な前衛音楽・現代音楽とは違い、その音楽を聴くだけで興奮し陶酔させてくれる*2。何というか、リスナーをいかにして楽しませようか、という気概──サービス精神といってもよいかもしれない──に溢れている。作品のあちこちで凝りに凝った仕掛けが施されており、それらが実に効果的な威力を発揮している(ことが解る)。ドラムの強奏や不協和音さえも、マシューズの手にかかると抜群に心地よい。ザ・プロムス The Proms で演奏されれば、とくに盛りあがると思う──どの曲もエネルギッシュだし、どの曲もエキサイティングだから。このアルバムはグラミー賞にノミネートされた。

ただ、これらマシューズの魅力は諸刃の剣になりかねないな、とも思う。なぜなら、作曲に約20年近く開きのある《第4番ソナタ》と《ブロークン・シンメトリー》(BBCによる委嘱)が、ほとんど同じような音楽に聴こえるからだ。《冥王星》にしても、そうだ。聴き応えのある音楽に変わりはない。だけれども「変わりはない」は「代わりはない」、ではない。

ノッティンガム大学で古典を学んだコリン・マシューズの作曲家としての出発点は、グスタフ・マーラーの未完の作品、交響曲第10番をデリック・クック(Deryck Cooke、1919 - 1976)と兄デヴィッドらとともに補筆、完成させたことにあった*3。最近では、ドビュッシーピアノ曲前奏曲集》の管弦楽編曲に取り組んでおり、それらはサイモン・ラトルが早々に録音している。





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*1:

Planets

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  • 発売日: 2006/09/12
  • メディア: CD

*2:とはいえ、ブックレットでポール・グリフィス/Paul Griffiths さんがタイトルの《Broken Symmetry》や《Suns Dance》の意味や由来について何も説明してくれていないのは気になる。やっぱり……言葉による理解がないと不安だ(笑)。ちなみに、ジャケットカヴァーを飾っているシンメトリーなイラストは Dirk Huizer という人の作品。カヴァー全体としては「ちょっとブロークン」なところが凝っている。さすが Deutsche Grammophon だ。

*3:サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によるマーラー交響曲第10番のCD(EMI)のライナーノーツは、コリン・マシューズが書いている。

Symphony 10

Symphony 10

  • 発売日: 2000/03/23
  • メディア: CD