HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

ペーター・エトヴェシュのオペラ《エンジェルス・イン・アメリカ》



ハンガリーの作曲家&指揮者、ペーター・エトヴェシュ*1(Peter Eötvös、b. 1944)のオペラ作品《エンジェルス・イン・アメリカ》(Angels in America, 2002-2004)の映像が、YouTube にあった。
Peter Eotvos



台本は、もちろんトニー・クシュナーTony Kushner の戯曲《Angels in America: A Gay Fantasia on National Themes》だ。(邦題『エンジェルス・イン・アメリカ―国家的テーマに関するゲイ・ファンタジア〈第一部〉至福千年紀が近づく』)。
作品は1993年のピュリッツァー賞トニー賞を受賞した*2。また HBO のドラマ版は、エミー賞ゴールデングローブ賞で多くの賞に輝いた。

Angels in America: Parts One & Two

Angels in America: Parts One & Two

エンジェルス・イン・アメリカ [DVD]

エンジェルス・イン・アメリカ [DVD]

エンジェルス・イン・アメリカ―国家的テーマに関するゲイ・ファンタジア〈第一部〉至福千年紀が近づく

エンジェルス・イン・アメリカ―国家的テーマに関するゲイ・ファンタジア〈第一部〉至福千年紀が近づく



[Angels in America, Opera]


ペーテル・エトヴシュと言えば、ピエール・ブーレーズの後任としてアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めた前衛バリバリの作曲家……だと思うのだが*3YouTube にはカールハインツ・シュトックハウゼンの、まさに前衛音楽である、三群のオーケストラのための《グルッペン》を彼が指揮しているリハーサル映像 Stockhausen Gruppen: Rehearsal Excerpt もあるし*4
でも少し前に、チェーホフの『三人姉妹』を三人の男性が演じ歌うという趣向のオペラ《Three sisters》のCDがDGからケント・ナガノ指揮でリリースされて、大いに話題になったのは記憶に新しい。音そのものよりも、その趣向のほうが、大胆不敵でアヴァンギャルドな感じがした。

EŠtvŠs : Three Sisters / Kent Nagano, Op?ra de Lyon

EŠtvŠs : Three Sisters / Kent Nagano, Op?ra de Lyon

そういえばエトヴシュは京劇にも関心があった(Chinese Opera, for Orchestra、1986) *5。そして、そんな彼の最新作は、何と『更級日記』に基づくオペラ《レディ・サラシナ、Lady Sarashina, 2007》だ。こちらの情報によると、リヨン国立オペラ/Opéra national de Lyon の初演(指揮はエトヴェシュ自身)では、演出・振付に天児牛大氏が起用されているようだ。

[Lady Sarashina, Opéra en 9 tableaux]


As I Crossed a Bridge of Dreams: Recollections of a Woman in 11th-Century Japan (Penguin Classics)

As I Crossed a Bridge of Dreams: Recollections of a Woman in 11th-Century Japan (Penguin Classics)




なるほど、エトヴェシュって、そういう「感じ」──チェーホフの感じ、京劇の感じ、日本の王朝文学の感じ*6、《Angels in America》の感じ──のものが好きなんだな、と。*7


[Peter Eötvös]

YouTube には他に《シャドーズ》の演奏があった。
Peter Eötvös: Shadows (1995), mvt. 1

*1:エトヴェシュ・ペーテル、ペーテル・エトヴェシュとも表記する

*2:Angels in America: Millennium Approaches A Gay Fantasia on National Themes [Internet Broadway Database]

*3:BMC(Budapest Music Center Records)から出ている『Electrochronicle』の印象が強烈だった。タイトルの通り、主に70年代に作曲された、なんとなく「懐かしい感じ」のエレクトロニクス作品集だ。

Electrochronicle

Electrochronicle

*4:僕は何かと「評判のよくない感じ」のクラウディオ・アバド指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団による《グルッペン》しか聴いたことがないのだけれども……個人的にはアバド盤気にっているけどね。エトヴェシュも《グルッペン》のCDをリリースしている。他の指揮者はアルトゥール・タマヨとジャック・メルシェ。オケはケルン放送交響楽団

Gruppen / Punkte (Dig)

Gruppen / Punkte (Dig)

*5:

エトヴェシュ:中国オペラ/影/石

エトヴェシュ:中国オペラ/影/石

*6:この『更級日記』(As I Crossed a Bridge of Dreams/diary of Lady Sarashina)を英訳している英国生まれの日本研究・日本文学者アイヴァン・モリス氏(Ivan Morris、1925 - 1976)って、源氏物語に関する本を著していたり、清少納言の『枕草子』や三島由紀夫の『金閣寺』なども翻訳しているようだ(そういえばエドマンド・ホワイト『枕草子』を絶賛していたな)。
The British Association for Japanese Studies(BAJS、英国日本研究協会)には「Ivan Morris Memorial Prize」というアイヴァン・モリスを記念した賞がある。
http://www.bajs.org.uk/

The World of the Shining Prince: Court Life in Ancient Japan (Kodansha Globe)

The World of the Shining Prince: Court Life in Ancient Japan (Kodansha Globe)


調べたら『The Nobility of Failure: Tragic Heroes in the History of Japan』は邦訳されているようだ。『高貴なる敗北 日本史の悲劇の英雄たち』(斎藤和明 訳、中央公論社
高貴なる敗北―日本史の悲劇の英雄たち (1981年)

高貴なる敗北―日本史の悲劇の英雄たち (1981年)


またアイヴァン・モリス氏は国際人権救援機構、米アムネスティ・インターナショナルAmnesty International USA の創設者の一人でもあった。これらの「連関」も興味を惹く。

*7:ついでに言えば、ハンス・ヘニー・ヤーン関連で触れたドイツの作曲家ハンス=ユルゲン・フォン・ボーゼ(Hans-Jürgen von Bose、b.1953)の『サッフォーの歌』(Sappho-Gesänge)の指揮はエトヴェシュだった。