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医療ツーリズム



ニューズウィーク日本版』(2008-3.5)の特集記事は「医療ツーリズム」(メディカルツーリズム、Medical tourism)であった。治療のために外国を訪れる患者──と聞くと、最初は、アメリカや西欧の先端医療を受けに行くことだと思っていたが、違った。むしろ逆であった。主に欧米の人々が「格安の治療」を求めて、アジアや東欧の国々へ向かうことであった。記事によると、昨年の「医療ツーリスト」はイギリスで7万5000人、アメリカでは50万人以上。アジアの医療ツアーの市場規模は10億ドル。年率30%ベースで成長しているという。
料金の安さが一番の理由である。例えばアメリカで3万ドルかかる心臓手術がインドでは4000ドル相当で受けられる。途上国での医療レベルが向上し「ベンツ級サービスをトヨタ車の価格」で受けられる。英語も通じる。医療保険に加入できない5000万人のアメリカ人には魅力である。イギリスでは手術に一年以上待たされることもざらであるし、歯科医不足も深刻だ。
さらに、次のような社会状況も「医療ツーリズム」の活況を後押ししている。

  • 「コスト管理にうるさい」アメリカの一部の保険会社が外国の提携病院での治療を加入者に推奨する。
  • EUでは、医療に「競争原理を導入してコストダウンと効率性アップ」をはかり、加盟国の住民が域内のどの病院で治療を受けても自国の保険が適用できる制度の導入を検討している。

一方、受け入れ国ではどうなのか。インドでは医療ツーリズム市場に参入したおかげで私立病院の質があがった。ポーランドでは医師の給料があがり「頭脳流出」を防いでいる。「医療ハブ」として国際的な存在感が高まる──アラブ首長国連邦のドバイでは「ドバイ・ヘルスケアシティー」の建設が始まっている、チェコでは外国人向けの私立病院が続々と開業している。メキシコではアメリカ資本の病院の開設が相次いでいる。『ニューズウィーク』の記事では触れられていなかったが、イスラエルもその高度な治療を提供することによって「ツアー先」としての地位を高めている
もちろん外国での治療にはそれなりのリスクが伴うが、それでも「国境なき患者」は急増、医療市場(患者と医師)はボーダーレス化しているということだ。


[メディカル・ツーリズム]


メディカルツーリズム 国境を超える患者たち

メディカルツーリズム 国境を超える患者たち

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