HODGE'S PARROT

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ラリー・スピークスの”ビート・ザ・プレス” 



元大統領報道官スコット・マクレランの回顧録が、保守、リベラルブロガーたちの恰好の話題となり、熾烈な舌戦を繰り広げているようだ。
Conservatives Try To Smear McClellan By Calling Him A ‘Left-Wing Hater’ Reciting ‘Blogworld Talking Points [Think Progress]


報道官の回顧録と言えば……そういえばラリー・スピークスの書いた本を持っていたな、と書棚から取り出してパラパラとページを捲ってみた。レーガン政権で1981年から1987年まで(副)報道官を務めたラリー・スピークス(Larry Speakes、b.1939)は、やはりマクレランと同様に、レーガン大統領の任期の最後の年に回顧録『スピーキング・アウト』(Speaking Out: The Reagan Presidency from Inside the White House)を発表して、レーガン政権の内幕を暴露した。
ただ、このスピークスの本はレーガン大統領やその政策を直接批判したものではない。様々な事件の背景が明らかになるが(とくにレーガンゴルバチョフ会談の内幕は興味深い。ちょっとした世間話からレーガン大統領はゴルバチョフ書記長が信仰を持っているのではないかという感触を得たりする)、どちらかというとゴシップのような感じである。何かしらのPRも兼ねているのかもしれない──TVドラマ『ザ・ホワイトハウス』(The West Wing)の報道官 CJ・クレッグがPR会社出身であるように、ラリー・スピークスもヒル&ノールトン社(Hill and Knowlton)のワシントン支社副社長のポストに就いていた。
中でも興味深く読んだのは、やはり報道官という立場から、マスコミとの丁々発止のやり取りだ。第14章「マスコミを斬る」では、主客転倒とばかり、報道関係者の「内幕」をいろいろと暴いている。

かつて、私はフラストレーションにかられた時に、マスコミ相手に忘れられない議論を吹っかけたことがある。「スピークスの掟」として知られているやつだ。ABCなどはそれをパネルにしてくれたから、私はそれを机の上に飾っておいた。「われわれのやることには口を出さない。われわれにも報道には一切口出ししない」というのがそれだ。彼らがやってきたことといえば、われわれのことに口出してばかり、もちろんその権利はあるのだけれど。




ラリー・スピークス/ロバート・パック『スピーキング・アウト レーガン政権の内幕』(椋田直子、石山鈴子 訳、扶桑社) p.288

といっても、スピークスはCBSダン・ラザーに電話して「あれはだめだ。間違っているよ」とか「あれはフェアじゃないよ」とか文句をいったりしている。良くも悪くもホワイトハウスの報道室とマスコミはライバル関係にあるようだ。しかしラリー・スピークスがとくに重要視したのは──贔屓にしたのは──『ワシントンポスト』と『ニューヨークタイムズ』であった。影響力が大きく、とくに『ワシントンポスト』の場合、「議会も最高裁も政府内部も『ポスト』を中心に動いている」とまでスピークスは書いている。

しかし、『タイムズ』や『ポスト』が多くのスクープをものにしているのは、ただ単に二社の規模が大きく、権力を誇るせいばかりではない。優秀なリポーターを抱えているから、こちらが贔屓しようがしまいが、いいものが出来上がるのだ。『タイムズ』も『ポスト』も、少なくとも一人のリポーターからも電話のかかってこない日はない。電話をかけてきては、「こんなネタを見つけたんですが、コメントは? いかがです? 図星でしょう?」などというのだ。


(中略)



『ポスト』や『タイムズ』のあとには、通信社の登場とご期待のむきもあるだろう。しかし、ワシントンにおいては通信社の影響力などたかが知れている。ニュースを流すだけで、特ダネをとることは滅多にない。リードするというより、後を追う体制なのだ。しかし中米におけるその影響力は無視できないものがある。




p.303-304


もちろんこのスピークスの所感は20年以上も前のものだ。当時、彼は、「家を出る前に『ワシントンポスト』を読んでおけ。ホワイトハウスに着く前に読み終わっていなければ、君は生涯チャンスをつかめない」とアドバイスを受けていた。

スピーキングアウト―レーガン政権の内幕

スピーキングアウト―レーガン政権の内幕