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「私はムスリムであり、イマームであり、そしてゲイである」〜『A Jihad for Love』より



ドキュメンタリー映画A Jihad for Love』(愛のためのジハード)で、イスラムと同性愛を描いたペルベス・シャルマ/Parvez Sharmaデモクラシー・ナウ!に出演した。シャルマ氏は現在ニューヨークを拠点に活躍しているジャーナリストだ。そして彼自身、ゲイでありイスラム教徒である。

“A Jihad for Love”: New Film Explores Challenges Facing Gay Muslims Worldwide [Democracy Now!]


このインタビューで何よりも注目したのは、『A Jihad for Love』に登場する、ゲイであることを公言している南アフリカイマームイスラム教指導者)の存在だ。彼の名前は Muhsin Hendricks。次のようなやりとりが放映されている。

MUHSIN HENDRICKS: God is everything to me. He’s the source of my strength. He is the center of my life.


RADIO INTERVIEWER: You said, over national radio, “I am Muslim, I am an imam, and I’m gay.” Did it ever occur to you that, “Listen, I’m going to be hurting the feelings of thousands of Muslims?”


MUHSIN HENDRICKS: Yes, I fully understand that, but what we also need to understand is that the issue of homosexuality within the Muslim community is real. These are the lives of people all over the world. On a daily basis, I deal with young Muslims who have a problem, and they are struggling with reconciling their Islam with their sexuality. So instead of them leaving Islam or committing suicide, what I basically do in my work with counseling with them is to tell them to accept Islam for the goodness that it comes with and reconcile it with their sexuality, because their sexuality, at the end of the day, is not something that’s going to disappear. Stick to the Islam and let Allah be the judge of it at the end of the day.

Muhsin Hendricks 氏は「私はムスリムである、私はイマームである、そして私はゲイである」と語る。そしてそのことが多くのイスラム教徒の感情を害しているだろうことも、むろん、彼は承知している。しかし何より必要なのは、イスラム・コミュニティ内において、同性愛の問題が現実的(リアル)に存在していることへの理解である。イスラム教徒であることと自分のセクシュアリティとに折り合いを付けようとして苦難している若いムスリムたちがいる。イマームである Muhsin Hendricks 氏は、彼らと関わり彼らに手を差し伸べている。信仰を捨てるか、それとも自殺をするか──それがゲイのムスリムたち実状なのである。だからこそ、Muhsin Hendricks 氏は、若者たちにイスラム教の善を説くのである、彼らが自分のセクシュアリティと折り合いを付けられる手助けになるように──セクシュアリティの問題は、どうしたって、一生彼らに付きまとう問題なのだから。だからこそ、イスラム教徒として生き、そして最終的には、アラーの判断に全てを委ねようではないか、と。


また、トルコのレズビアンカップルの取材で、イスラム神秘主義スーフィー(Sufi)についても興味深い指摘があった。スーフィーワッハーブなどの「正統的な」教派により軽視・異端視されているが、しかし重要なのは、スーフィズムにおいて、伝統的に、同性間の欲望(same-sex desire)が表現されていることだ*1 *2

スーフィー諸派の間では、イスラム教の多数派が戒律によって禁じる音楽や舞踏などを行法に用いることも一般的である。直接的な体験を重視する傾向ゆえに、師もしくは長老(シーク)との直接的な関係を基軸とした共同体や同胞団としての形態をとることが多い。それらの共同体のなかで修行に打ち込んだり、あるいは教えを説いて各地を遍歴したりする者たちは、ダルビッシュとも呼ばれる。


一般的には、個我からの解放、そして<神>もしくは<全体>との合一をみずからの体験として追求する傾向が、広くスーフィーとして知られる諸派の共通点であると言われる。また、諸派が構成する精神的共同体の内部での友愛的な絆の強さも、スーフィーの特徴のひとつと言われる。それらの精神的共同体のメンバーは一般的には男性のみであるが、歴史のなかでは女性がスーフィーの師となった例もあり、少数ながら女性の入団を認める派もある。




スーフィー [ウィキペディア]

[A Jihad for Love]

Parvez Sharma

*1:そういえばポーランドの作曲家カロル・シマノフスキKarol Szymanowski、1882 - 1937)の交響曲第3番「夜の歌」Op.27 は、スーフィズムの詩人ジャラール・ウッディーン・ルーミーJalal ad-Din Muhammad Balkhi-Rumi)のテクストが採用されていたのだった。

*2:スーフィに関する本も読んでみたくなった。

スーフィズム イスラムの心

スーフィズム イスラムの心

 
イスラムの神秘主義―スーフィズム入門 (平凡社ライブラリー)

イスラムの神秘主義―スーフィズム入門 (平凡社ライブラリー)