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ジャン=イヴ・ティボーデの『Aria - Opera Without Words』



先週は宗教音楽(の大曲)ばかり聴いていたので、今週は世俗的でちょっと気楽な音楽を聴きたくなった。それでこれ。

Aria: Opera Without Words

Aria: Opera Without Words

  • アーティスト: Alfred Grünfeld,Camille Saint-Saëns,Erich Wolfgang Korngold,Giacomo Puccini,Giovanni Sgambati,Percy Grainger,Richard Wagner,Vincenzo Bellini,Jean-Yves Thibaudet
  • 出版社/メーカー: Decca
  • 発売日: 2007/02/13
  • メディア: CD
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フランスのピアニスト、ジャン=イヴ・ティボーデ(Jean-Yves Thibaudet、b.1961)による『アリア、言葉のないオペラ』──オペラの曲をピアノのアレンジで演奏したものだ。しかもブックレットが、正装からカジュアルな服装のティボーデの写真をあしらい、そこに金色の文字が映える洒落たものであることも、虚飾に満ちた「この世」を表しているようで、だからこそとても素敵だ。


上記の有名なオペラ作品から、これまた有名なアリアなどがピアノで歌われている。グルックの音楽は繊細でとても美しいし、プッチーニベッリーニの歌(心)も心地よい。そして《ばらの騎士》は、この上もなく耽美的だ。もちろん「気楽に」といってもヴィルトゥオーゾ・ピアニストのティボーデなので、最後の《ワルキューレの騎行》などは抜群のテクニックに息を呑む。
オペラは、実は、これまで決して得意なジャンルではなかった──とりわけイタリア・オペラには。だが、ここのところ、オペラに(限らず、クラシック音楽全般、映画もだ)関する情報が詳しく記してある素晴らしいブログを熱心に読むようになって、俄然、興味が沸いてきたのだった──しかも歌手がイケメンだったりすればなおのことだ。
なんというかガチガチの「ドイツ音楽至上主義者」であっても、何かのちょっとしたきっかけで、柔軟に変化できる余地や契機をそこに「発見」することができて、それが単純に嬉しかったりする。かつてすれ違ったり、反発を感じた音楽にも、これから幸運な出会いがあるかもしれない。

「天まで届く塔です。そして下は地獄まで」とフィリップが言った。塔のてっぺんは太陽を浴びてきらきら輝き、土台は陰になって、広告がべたべた貼られていた。


(中略)



「まさか、オペラの広告ではないでしょうね」とアボット嬢が言った。
フィリップが鼻眼鏡をかけて読んだ。「『ランメルムーアのルチーア』。ドニゼッティ作曲。本日限りの特別公演」
「でも、こんなところでオペラの公演があるのかしら?」
「もちろんありますよ。ここの人たちは人生の楽しみ方を知っています。たとえひどいものでも、ないよりはましだと思っています。それで結局は、いいものをたくさん味わうことになります。今夜の公演がどんなにひどいものでも、とにかく生き生きした公演になることはたしかです。
イタリア人はあのドイツ人みたいに、むっつり黙って音楽を楽しみようなことはしません。聴衆も音楽に参加します。ときどき行き過ぎることもありますが」




E.M.フォースター『天使も踏むを恐れるところ』(中野康司 訳、白水社) p.139-140

天使も踏むを恐れるところ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

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