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ニューヨーク・タイムズ、ビル・クリストル氏を起用



ネオコン/Neoconservatism の代表的論者であるウィリアム・クリストル氏(Bill Kristol)が『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニストに起用された。デビューは1月7日だ。


ニューヨーク・タイムズ、ネオコン論客をコラムニスト起用 [Yahoo!ニュース/読売新聞]

クリストル氏はイラク戦争を一貫して支持し、リベラル色の強い同紙の論調と真っ向から対立。同紙が2年前、米政府による国際金融取引の極秘監視活動を暴いた際も、国益を損なうとして訴追を求めるなど、批判の急先鋒(せんぽう)だった。


 クリストル氏の起用にリベラル派の一部は猛反発しているが、同紙のコラム欄担当編集者は「異論を聞きたがらない人は大きな間違いを犯す」と主張。一方、敵陣に乗り込む形になるクリストル氏は「同紙の多様性を高めることは、やりがいのある目標」と述べ、リベラル派の反発には「光栄で愉快だ」と応じている。


The Times Adds an Op-Ed Columnist [The New York Times]

Mr. Kristol, 55, has been a fierce critic of The Times. In 2006, he said that the government should consider prosecuting The Times for disclosing a secret government program to track international banking transactions.


In a 2003 column on the turmoil within The Times that led to the downfall of the top two editors, he wrote that it was not “a first-rate newspaper of record,” adding, “The Times is irredeemable.”


In the mid-1990s, Mr. Kristol led the Project for the Republican Future, an influential policy study group. Before that, he was chief of staff to Vice President Dan Quayle.


A native of New York City, he holds a bachelor’s degree and a doctorate from Harvard.


His father is Irving Kristol, one of the founding intellectual forces behind modern conservatism.


ウィリアム・クリストルは、やはり保守派の知識人アーヴィング・クリストル(Irving Kristol)の息子で、シニア・ブッシュ政権の副大統領だったダン・クエールの主席補佐官を務めた。ユダヤ系である。
副島隆彦 著『現代アメリカ政治思想の大研究―「世界覇権国」を動かす政治家と知識人たち』によれば、ビル・クリストルは、政治哲学者のレオ・シュトラウスLeo Strauss)の弟子であるようだ。

レオ・シュトラウスシカゴ大学名誉教授)こそは、シカゴ学派哲学の創設者であり、アメリカ哲学会の大御所である。彼もまた、アリストテレス哲学を徹底的に研究した学者である。したがって近代以降の、デカルトやらカントやらヘーゲルやらの哲学を勉強した人たちなど、鼻もひっかけない。社会主義マルクス主義)など更に論外である。


人間の知恵についての全研究は、2500年前のアリストテレスと、中世のトマス・アクィナス(トミズム Thomism)で出そろっているとする強固な学問的立場である。根本的な保守思想である。




副島隆彦 著『現代アメリカ政治思想の大研究』(筑摩書房

そういえば、「日本の対米ロビー活動」で触れた、浅川公紀 著『アメリカ外交の政治過程』にも『ニューヨーク・タイムズ』といったメディアやそれに登場する「ニュース評論家」に関する興味深い記述があった。

バーナード・コーエンは論文「外交政策立案者と報道機関」で、「ニューヨーク・タイムズ外交問題に関心あるいは責任をもつ事実上、すべての政府関係者により読まれている。外交官僚はボスに世界情勢を説明するため朝早く事務所に出てきてニューヨーク・タイムズを読むと、よくいわれる。これは作り話だと分ってしまう。というのはボス自身が早く出てきて、ニューヨーク・タイムズを自分自身のために読んでいるからだ。
タイムズは外交政策分野における権威ある新聞であるという評価は一貫している。公共政策に携わる国務官僚は、深夜の電文なしでも何とかなるが、ニューヨーク・タイムズなしには国務省で働くことはできないといっている」と指摘している。


また政治学者ベンジャミン・ページとロバート・シャピロが1969年から83年までの十五年間に大統領、政府閣僚、与党関係者、野党関係者、利益団体、専門家、ニュース評論家などが公衆の外交・国内政策に対する見方に与えた影響を分析した調査(「合理的公衆──アメリカの政策嗜好における五〇の傾向」)によると、公衆の政策への見解は基本的に安定しているが、公衆の見解に最も大きな変化を及ぼしたのは大統領でも政府関係者でもなく、メディア、とくにニュース評論家であるという結果が出た。
メディアは公衆の政策に関する世論形成で最も大きな影響をもっているということになる。




浅川公紀『アメリカ外交の政治過程』(勁草書房) p.203-204



Kristol: The New York Times ‘Should Be Prosecuted,’ ‘It Isn’t A First-Rate Newspaper’ [Think Progress]

Kristol seems to understate his abilities to bring about regime changes.


アメリカ外交の政治過程

アメリカ外交の政治過程






それと「ネオコン」でニュースを検索していたら、ハンナ・アレントの記事に出くわした──ちょっと意外、でもないか。というのも、

ハンナ・アーレントは終わらない [朝日新聞]

「ウェブ」。人間の言論と活動によって結ばれた人間関係の網の目を、半世紀も前に、ハンナ・アーレントが『人間の条件』でそう呼んだと知ったとき、作家の平野啓一郎さん(32)は驚いたという。


 ウェブサイトはインターネット上に自在な空間を立ち上げ、表現を生み出す。一方、戦争と革命の20世紀、ナチスの迫害を生き延びたユダヤアメリカ人の思想家もまた、様々な人とのかかわりを通じて想像力を膨らませ、全体主義論の大著で世に出た。

そこから、

確かに、アーレントの主張は一筋縄でいかない。右か左か。保守かリベラルなのか。称賛の一方で、読者を惑わせ期待を裏切ることもあった。


 たとえば60年代にはベトナム反戦運動公民権運動を擁護し、政治参加を促す民主主義の旗手の印象があった。だが迅速な解決策を示すわけではない。民衆の貧困より政治理念に重きをおく志向、大衆民主主義への批判が、エリート主義ともいわれた。ネオコンのルーツとの指摘もある。

さらに、

遅れてアーレントの存在が知られるようになった日本でも、アイヒマン裁判は取り上げられた。90年代後半、加藤典洋さんの『敗戦後論』に端を発した高橋哲哉さんとの論争。双方が異なる角度からアーレントに触れ、彼女の思想の多層性が示された。

ということなので。


アレントは、現存するイスラエル国家には、おおむね批判的であった。しかし一方では、1967年の「六日戦争」の勝利の際には熱狂的に喜んだとも伝えられている。また、1973年の第四次中東戦争においてはイスラエルの敗北を心配し、イスラエルへの強い支持を表明していたという。そこには、ユダヤ人の故国をなんとしても守りたいという、理屈を超えた感情がうかがえる。


ところでアレントは、第二次世界大戦終戦直後から「ユダヤ文化再建委員会」の仕事に従事するようになり、また戦後にはショッケン出版の編集者としても働くようになる。そしてこれらの仕事を通じて、ニューヨークのユダヤ人を中心とした知的世界との交遊を持つようになる。その中には、詩人のランダル・シャレル、W.H.オーデン、ヘルマン・ブロッホ、批評家のアルフレッド・ケイジン、そして生涯の親友となる作家のメアリー・マッカーシーといった人々がいた。
また、このころから、『パーティザン・レヴュー』や『コメンタリー』など、ニューヨークのユダヤ系を主とした知識人たちの中心的な雑誌に、しばしば寄稿するようになっている。ケイジンが伝えているように、彼女の輝かしい知的背景とそしてなによりもその強靭な思考力は、瞬く間に人々の注目するところになったようである。




川崎修『アレント』(講談社) p.27-28

現代思想の冒険者たちSelect アレント 公共性の復権

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