HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

東独の音 ゲヴァントハウス弦楽四重奏団のフランク



歴史あるオーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のメンバーで構成されたゲヴァントハウス弦楽四重奏団によるセザール・フランク弦楽四重奏曲を聴いた。

フランク:弦楽四重奏曲 ニ長調

フランク:弦楽四重奏曲 ニ長調


フランクの音楽は年がら年中聴いているのだが、しかしめっきり寒くなったこの季節には、フランク唯一の──といってもフランクは寡作なので、ほとんど唯一の、なのだが──弦楽四重奏を聴くのは似つかわしいと感じる。ベートーヴェンの後期作品にも匹敵する内容と規模を誇り、しかも大器晩成型作曲家の最右翼であるフランクの、まさに最晩年に書かれた弦楽四重奏曲
重厚で緻密な構成を誇る作品でありながら、どこか官能的な響きが湧き上がるのもフランクならではだ。約40分間、息の長い旋律の変奏と絶妙な和声の変化という魔術に酔わされる。やっぱりフランクの音楽はいいな、と思う。



演奏、というかCDについても書いておきたい。このCDはキングレコードが出しているドイツ・シャルプラッテンレコード(VEB Deutsche Schallplatten*1というレーベルのものなのだが、ドイツ・シャルプラッテン社自体はもはや存在しない。というのもドイツ・シャルプラッテンは東ドイツ唯一の国営レコード会社であって、したがって東ドイツという国家がなくなってしまった以上、その国営企業であるシャルプラッテンもなくなってしまったからだ。
そのことに関して、徳間ジャパンコミュニケーションズのプロデューサーでドイツ・シャルプラッテンを担当していた清勝也氏のインタビューがキングレコードのウェブサイトに載っており、貴重な証言となっている。

僕たちの社会では、まず売れなきゃならないでしょ。ところがドイツ・シャルプラッテンというのは東ドイツに一つしかない国営会社ですから、ライバル会社がない。売れなかったら、という発想がなかったんですね。


ドイツ・シャルプラッテンの人たちは、ディレクターもトラックの運転手さんも、よく生の音楽会に行ってたんです。全員がいつも生の音楽聴いてる。だからみんな、レコードが生の音楽の良い媒介であるという意識を持っていた。音楽が空気を通して皮膚に伝わってくる、それを全員が知ってたレコード会社。だから、ものすごく音楽がふくよかなんです。
 今回発売されるシリーズが録音された頃は、東ドイツが血気盛んだった時代でした。それが後に、ベルリンの壁が一気に崩壊して、国が消えちゃった。本当に青天の霹靂でした。ドイツ・シャルプラッテンの人たちも、統一は20年先か、それとも永遠にないか、と思ってたんじゃないかな。


セザール・フランク弦楽四重奏曲は「人気曲」では決してない。「売れない」曲かもしれない。でも、素晴らしい音楽だ。それは断言できる。

*1:VEB は Volkseigener Betrieb(英 "People-owned enterprise")。キングレコードのレーベル紹介によれば、ドイツ・シャルプラッテンは最盛期には1000人以上の従業員を要し、西側の音楽家達からも羨ましがられる優秀な制作・録音チームを抱えていたという。外貨を稼ぐトップクラスの公団として「カール・マルクス勲章」を授与されたほどだった。