HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト』



アル・ゴア米副大統領のスピーチライターを努めたダニエル・ピンク/ Daniel Pink の著書『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』*1を読んでいる。
タニエル・H・ピンクは1964年生まれ、ノースウエスタン大学卒業後、エール大学ロースクールで法学博士号取得。現在は「フリーエージェント」のジャーナリストとして『ニューヨーク・タイムズ』『ハーバード・ビジネス・レビュー』などに記事を寄稿する他、企業や大学での講演活動も行っている。

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代



まだ全部読んでいないのだが、以下がこの本の凡その「コンセプト」なのじゃないかと思う。

今の時代を生き延びられるかどうかは、対価の安い海外のナレッジ・ワーカーや、高速処理のコンピュータにでもできない仕事をやれるか、そして豊かな時代における非物質的で解しがたい潜在的欲求を満足させられるかどうかにかかっている。
だからもはや、「ハイテク」だけでは不十分なのだ。


大いに発展したハイテク力を、「ハイ・コンセプト」*2と「ハイ・タッチ」*3で補完する必要がある(「はじめに」で述べたように、ハイ・コンセプトとは、芸術的・感情的な美を創造する能力、パターンやチャンスを見出す能力、相手を満足させる話ができる能力、見たところ関連性のないアイデアを組み合わせて斬新な新しいものを生み出す能力などである。ハイ・タッチとは、他人と共感する能力、人間関係の機微を感じとれる能力、自分自身の中に喜びを見出し、他人にもその手助けをしてやれる能力、ありふれた日常の向こうに目的と意義を追求できる能力、などである)。
ハイ・コンセプトとハイ・タッチは、世界中の経済や社会において、急速に注目を集めている。




ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト』(大前研一 訳、三笠書房) p.103


このことを、説得し、そして納得させるために、左脳や右脳の働きや様々な「実例」がプレゼンテーションされる。極めて明晰で理路整然とした展開を見せる。さすがは元スピーチライターだ。


そして、だとすれば、約350ページ全てを読まなくてもいいかな、と思った。というのも訳者の大前研一氏──帯の写真の大きいこと(笑)──が冒頭で「これからの日本人にとって必読の教則本」という上記の論旨に沿った解説をしているからだ。
大前氏の解説によれば、今後「まともな給料」をもらうためには、

  1. 「よその国、特に途上国にできること」は避ける
  2. 「コンピュータやロボットにできること」は避ける
  3. 「反復性のあること」も避ける。反復性のあることはロボットかコンピュータが必ずやってしまうか、BPO(間接業務のアウトソーシング)されてしまうからだ。

とし、イノベーションや、クリエイティブ、プロデュースといったキーワードに代表される「能力」が何よりも必要であると述べる。
ピーター・ドラッカーの言う「ナレッジ・ワーカー(知的労働者)」が礼賛されていた時代=情報化社会は10年前である。今や情報化社会も最終段階に入っている。情報化社会においての花形ビジネスに含まれる弁護士や会計士の仕事も「パッケージソフト」で仕事の大部分ができるようになった。学校の教師も同様である。

経済学に関していえば、いまは、世界中の「経済原論」の講義でサミュエルソンの本の「輪読会」をやっているようなものだ。
ところが、サミュエルソンが直接インターネットに出てきて教えてしまうと、「輪読会」をやっている程度の経済学の教師は失職してしまうのである。
サミュエルソンなら、生徒一人から100ドルずつの授業料で10万人に教えたら、毎年1000万ドルの収入になる。つまり、サミュエルソンは高収入を得られるけれども、「輪読会」をやっていた教師は月500ドルのTA(補助教員)。メシの食い上げになってしまうのだ。



このように、知的労働者がやっていた、反復性があったり、再現性があったりする仕事は、コンピュータやロボットに吸収される。たとえ反復性はなくとも、インドなどにアウトソースされてしまう。




大前研一「これからの日本人にとって必読の教則本」 p.13-14


この後、大前氏は、「カンニングOK」社会への展開へと論を進めていく。カンニングとは言葉穏やかではないが、要するに Google で検索しろ、ということである──学校で教えられているようなことは、メモリチップにおさめたらせいぜい100円分の価値しかないのだから。したがって「カンニングOK社会」とは「教育革命」のことである。いかに上手に「カンニングする」か……ググれるか、だ。
そして左脳・右脳の対立については、ベートーヴェン型(左脳)、モーツァルト型(右脳)とわけ、今後はモーツァルト型(右脳)の脳への転換を奨励する(多分、ベートーヴェンはあれこれ「理屈(主題労作)」を並べ、モーツァルトは沸きあがる「アイデア」を書く、というイメージなのだろう)。

二十一世紀はどんな世紀になるかを考えるとき、本書のダニエル・ピンク的な感覚、つまりコンセプトの時代であるとか、優れた個人のもとで企業が栄えるというのが結論だ。
だから、二十一世紀は、いかにそういう突出した個人を見つけるか、にかかっている。


(中略)


私が話をする際の指針である「国民国家から地域社会へ」という地域国家論、「それからさらに個人へ」は、まさに同じメッセージなのである。




大前研一「これからの日本人にとって必読の教則本」 p.23-24


A Whole New Mind: Why Right-Brainers Will Rule the Future

A Whole New Mind: Why Right-Brainers Will Rule the Future



[Official site of author Daniel Pink Articles]




ダニエル・ピンク-Daniel Pink-が「フリーエージェント社会の到来」を語るNo.1


Daniel Pink: How Can I Switch Jobs?





[Daniel H. Pink 関連記事]

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

*1:原題”A Whole New Mind”

*2:High Consept

*3:Hight Touch