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スラヴォイ・ジジェクとビジネス英会話



先日、メモしておこうと思っていたスラヴォイ・ジジェクナオミ・クラインに対する批判──というより「当てこすり」めいているが──だが、それを読んだとき、まさにジジェクの言っていることをどこかで読んだような気がして、持っているビジネス書/ビジネス雑誌をいろいろと捲った。が、似たようなことは書いてあるものの「それ」が見当たらなかった。
(こういうのはすこぶる気分が悪く、やはり先日、ベルリオーズの《幻想交響曲》について書いたとき、ヘルベルト・ケーゲル指揮のCDが見つからなくて──今も見つからないのだが──とてもじれったい)


ジジェクは次のように資本主義の現状について記していたのだった。

身体なき器官 ブライアン・マッスミは、現代資本主義が正規性を全体化するといった理論をすでに乗り越え、常軌を逸した過剰の論理を選び採っているという事実にもとづくこうしたどん詰まりに、明快な定式を与えている。

変化に富めば富むほど、また突飛であればあるほど、よい。正常さはその根拠を失い始めている。規則性も緩み始めている。常態のこの弛緩が資本主義のダイナミズムの一部となった。それはたんなる自由化ではない。資本主義自身が有する権力の形式である。もはやそれは、すべてを規定する規律的で制度的な権力などではなく、変異を産出する資本主義の権力なのだ──というのも、市場が飽和状態にあるからだ。変異を産出せよ。そうすれば市場の隙間(ニッチ)を創り出せる。情動的傾向のうちでももっとも奇態なものがよい──採算が合うなら。
資本主義は情動を強(度)化し多岐させはじめている。剰余価値の搾出という目的があるだけだ。資本主義は利潤産出の潜在力を強(度)化するために情動を乗っ取った。それは、文字通り、情動を価値実現-価値増殖させる。剰余価値の資本主義的論理は、政治的環境(エコロジー)の領野でもある関係的領域、同一性(アイデンティティ)や予測可能な筋道への抵抗の倫理的領域を接収するために出立する。それはまさに困難と混乱に充ちている。というのも、資本主義的権力と抵抗という二つのダイナミクスのある種固有な収斂が存在するように、私には感じられるからだ。


とすれば、「ネオリベラルの経済は、あらゆるレヴェルで集中、統合、均質化を目指す傾向を示すが、これは『多様性』に仕掛けられた戦争である」と書くナオミ・クラインは、長い年月を経てきた資本主義の到達点の核芯を捉えていないことにならないだろうか? 現代の資本主義的近代化を目指す人びとは、このように書く彼女を絶賛しはしないだろうか? というのも「分散化、権力委譲、地域的創造性と自己組織の動員といった試み」が、企業管理における最新の流行(トレンド)だからだ。
まさに反-中央集権化が、デジタル化された「新」資本主義のテーマではなかったか? ここでも問題は見掛け以上に「困難と混乱に充ちて」いる。





スラヴォイ・ジジェク『身体なき器官』(長原豊 訳、河出書房新社) p.347-348


で、「それ」をやっと思い出した。杉田敏の『NHKラジオビジネス英会話 海外勤務・大滝怜治 編』だった。


Lesson 11「Telecommuting(在宅勤務)」。ビニエットは、以前ピアソン(Pearson Worldwide、全米で十指に入るPR会社)に勤めていて現在はフリーランスの在宅勤務をしているベス・ヘフナーさんの話題だ。
最近は再び「在宅勤務」(Telecommuting)がポピュラーになってきた。再認識されてきた。なぜか。単に通勤の酷さを緩和する以外の理由があるのだ。ヘフナーさんは言う。

…… in the wake of 9/11, companies have realized that it's wise to have the workforce dispersed instead of all packed together in one location.




p.112

9.11の同時多発テロ以降、企業はオフィスと従業員の分散化に有利な点を見出した。出張手当などの経費、時間が節約できることはもちろん、一定の割合の従業員を「安全に」確保できるからだ。
ニーソンさんは言う。

A staff that's less centralized is one way for a company to protect its human resources. With the renewed interest in telecommuting, consultants for communication systems and software sure aren't hurting for work. Companies are turning to them to provide seamless phone and video systems for workers spread out all over the map.



p.114

社員を一点に集中させないこと──それが会社が人的資源を守るための方法だ。企業は、世界中に散らばった社員たちにシームレスなテレビ電話のシステムを提供することをコンサルタントに相談している。在宅勤務者はスマートカード、安全性の高い身分証明書、そして安全が保障されたソフトウェアで「武装」(arm)する。
そして、このような「トレンド」によって、これまでの「コミュニケーション」のスタイル──従来の、社員同士が顔を突き合わせて仕事をすること──も過去のものになりつつある。ヘフナーさんは、高度で専門的なサービスを提供することによって「ニッチ市場」をクリエイトし、独自のネットワーク(情報交換)でクライアントを獲得している、と、会話は続いていく……(仕事しろよ、おしゃべりばっかりしてないで!)。


まあ、これだけのことと言えばこれだけなんだけど、とてもすっきりした気分だ。ケーゲルのCDも早く見つかればいいな。




そういえば「ビジネス英会話」は今ではネットで聴けるんだよな。

どうせなら、昔の放送も聞きたいな。McMillan & Burton(M&B)のものとか──荒木裕美さんや、ルー・クルーズさん、リー・シーモアさんは元気かな。

そして個人的なことだが……僕はこのシリーズでずっと日本人ビジネスマン役をやっている Ken Aizawa さんの「声」のファンで……声しか聞いたことがないので、どんな人なのだろうと、いつも思いながら「勉強」していた(笑)。






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『The Co-Workplace』の Editorial Reviews より