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アシュレー・ウェイスの「フランク:ピアノ作品集」



Franck : Music for Piano

Franck : Music for Piano

イギリスのピアニスト、アシュレー・ウェイス(Ashley Wass、1977年生まれ)の演奏によるセザール・フランクのピアノ作品集。Naxos の「期待の新進演奏家リサイタル・シリーズ」(Laureate Series)の一枚で、ウェイスは1997年のロンドン世界ピアノコンクールで第1位に輝いている*1。イギリス人としては初の優勝者だ。


[London International Piano Competition]

Naxos からは他に、エドワード・エルガー、フランク・ブリッジ、アーノルド・バックスといった英国の作曲家の作品をリリースしている。


で、フランクである。何度も書いているが、僕は熱狂的なフランクのサポーター(フランキスト)だ。そしてこのアシュレー・ウェイスのCDにはとても満足している。というのも、ウェイスは、二大傑作《前奏曲、コラールとフーガ》と《前奏曲、アリアと終曲》に加え、あまり演奏/録音される機会の少ない最初期(習作期)の作品まで演奏してくれているからだ。収録曲は以下。

  • 牧歌 - 羊飼いの歌 Op.3
  • 大奇想曲 第1番 Op.5
  • 人形の嘆き
  • 前奏曲、コラールとフーガ
  • ゆるやかな舞曲
  • 前奏曲、アリアと終曲


《羊飼いの歌》や《大奇想曲》は両曲とも演奏時間約15分で、なかなかドラマティックであり、十分に聴き応えがある。もっと頻繁に弾かれてもいいなと思う。《ゆるやかな舞曲》も、物思いに耽るようなアンニュイさが印象に残る小品だ。
けれど、やっぱり、二つの《前奏曲……》だな。ウェイスのピアノがいい。前奏曲の内に秘めた官能性、コラールの神秘的な雰囲気、情熱的なフーガ。このピアニストは幅広い表現力を有しているな、と思う。
そして《前奏曲、アリアと終曲》が、また、いい。とくにアリアの弱音の美しいは特筆ものだ。しかもそれが終曲になると、一転、ベートーヴェンの《熱情》のように闘争的になり、ウェイスの技巧が十分に発揮される。しかし最後は前奏曲やアリアが「懐かしく」回帰して、静かに、消えるように音楽が終わる。絶品。




[Ashley Wass]

上記のアシュレー・ウェイスのオフィシャルサイトは情報量が多い。レパートリーも、ベートーヴェンの全協奏曲を始め、ブラームスラフマニノフチャイコフスキーといった歯応えのある難曲、さらにはラヴェルプーランクといったフランスものまでものにしている、と強気にもサイトに明記されている──もし大物有名ピアニストが演奏会を突然キャンセルしたら「俺のところへ来い! どんな曲でも代役は務まるぜ」とでも言っているかのようだ。イギリス人らしくブリテンやティペットの作品もレパートリーに入っている。
イギリス人らしいと言えば、「Meet the artist」のコーナーを見ると、ウェイスは『イングリッシュ・ペイシェント』が好きな映画で、リヴァプールFCLiverpool Football Club)の「熱狂的なサポーター」なのだそうだ。サッカーの試合があるときにコンサートを開かなくてはならないのが「いやだ!」、と正直に書いている*2





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*1:ちなみに2005年の第一位はヘルベルト・シュッフ、2000年の第二位がシモン・トルプチェスキだ。

*2:(蛇足ながら)で、あるならば/であるからこそ、「仕事をする」ということがどのような「実践」であるのかが理解できる。