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欧州ジャーナリストの社会的地位と倫理



ミシェル・マティアン著『ジャーナリストの倫理』は主にフランスのジャーナリズムの誕生・歴史・現状(出版年の1995年まで)について書かれたものであるが、参考としてヨーロッパ各国のジャーナリストのステータスと倫理についても簡単に記されている。1995年当時の情報で、現在ではいくつかの変更もあるかと思うが、参照しておこう*1

国名 ステータス 倫理
ドイツ 職業に関する法的な定義はなく、就業は免許所有と無関係。仕事は行政ならびに職業組織が共同で与えるプレス・カードを持っていないと行えない。ジャーナリストとしての作品は著作権によって保護されているにすぎない。就職の条件は15ヶ月〜24ヶ月の現場での試用(ボランティア)。 職業組織、編集人/ジャーナリストによって任命された20人からなる新聞評議会が職業倫理の尊重を監視する責務を負う。Lander法はジャーナリストに事実の正確さと訂正の義務を強いている。
ベルギー 1963年規約は一定の規範(収入の大部分があること、商業活動との兼業でないこと等)を確認したあと、ベルギー・プロ・ジャーナリスト総同盟の提言に基づき、内務省がライセンスを発給することを明記している。著作者としての権利は認められ、ジャーナリストという肩書きも保護されている。上級免状(四年間の研究)所持者に対しては給料の上乗せ。 刑事責任はまず、印刷者側の手落ちがないかぎり記事の筆者にある。
デンマーク ジャーナリストの法的身分はないが、就業するには、ジャーナリスト全国組合発行の就業ライセンスを持っていなければならない。著作権の適用。ニュース・ソース保護の権利。 新聞評議会が倫理協約を守らせるため1964年創設された。制裁の権限はないが、勧告はできる。
スペイン 社会的身分はない。就業にはジャーナリスト台帳への登録、情報科学免状(学士号)の所持ないし、2年〜5年の現場での経験が前提。またスペイン人であること。 新聞犯罪の第一責任者は筆者にあり、社長の責任は間違いのあったときだけ。最終的には印刷者も同じである
フランス 1935年3月29日法は職業的ジャーナリストの身分を定義している(良識条項)。職業保障カードを出す委員会設置、収入の条件、両立しない商業活動の禁止など 参照規準となる職業憲章はあるが、拘束されない
イギリス 法的身分は欠如。就業には、企業での見習いまたは「ジャーナリスト養成国民評議会」による教育が必要。著作権は編集者の益となる。 司法と国家情報に関する厳格な法制化に直面した1953年創設の新聞評議会は、数々の意見対立を調停。国民的な議論。
アイルランド ジャーナリストの法的ないし職業的定義なし。 憲法によって教会と国家は暴言、アジ、下品な言動から保護されている。
イタリア 1963年から法的身分があり、職業団体(ALBO)登録が義務づけられ、登録した人だけにジャーナリストの肩書と仕事が約束されている。
<職業的ジャーナリスト>とほかの活動を平行して行う<広告ジャーナリスト>とは区別される。フリーランスはいない。就職のためには、18ヶ月の見習いと、職業試験合格が要る。
編集人との関係は法律の効力を有する全国共同協約によって規定されている。この協約は各新聞社の編集委員会の重要な役割を規定させ、<良識条項>と等価の有益な社会的保護制度を認めている。相反する司法決定の場合を除いて、ニュースソースの保護を保障。
発行責任者と編集局長に刑事責任。この二人の後に筆者は民事に介入。ジャーナリストと編集者が同意した義務憲章がある。
ルクセンブルク 就業は自由だが、主要な収入をそこから得ていることと、商売をしないことが条件。肩書の濫用は違反。肩書は新聞評議会が付与。 1979年法によって創設された新聞評議会が84年倫理規約を制定。報道された情報によって利益を侵害された人は救済できる。
オランダ 職業の法的定義はあり、その尊重は職業組織である「ジャーナリズム評議会」にまかされている。 独立した新聞評議会が1951年創設され、記事やジャーナリストの行動に対する苦情がある場合倫理綱領に含まれた規準に照らして判断する。また回答する権利の公表を命じることができる。
情報源の法的保護はないが、必要な場合名前を明かさないことができる。
ポルトガル 法的身分はある。就業には最低限の一般教養(大学入学資格)が前提。就業証は単一のジャーナリスト組合が発行。仕事を単独で行う見習いは認められておらず、プロフェッショナルの同伴が必要。肩書は保護。 情報の厳正さを監視している情報最高機関がある。

ジャーナリストが世界的規模で活発だといっても、その実践のための職業化や自由の程度がどこでも同じでないことはあきらかである。それは国連の加盟国でありながら<情報の権利>にいまなお反対している政治的政権によって設けられた条件に左右されているのではないか。


<国境なきリポーター>やジャーナリスト国際連盟(FIJ)が定期的に問題にしているように、情報のプロフェッショナルたちはその職能を行使するためにいつも大きな犠牲を払っている。1994年には世界で百人以上のジャーナリストが暴力的な方法、とりわけ暗殺によって殺害されているのである。




ミシェル・マティアン『ジャーナリストの倫理』(松本伸夫 訳、白水社文庫クセジュ) p.32

ジャーナリストの倫理 (文庫クセジュ)

ジャーナリストの倫理 (文庫クセジュ)





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*1:出典はピエール・トドロフ『欧州時間のフランスの新聞』、ヒュー・スティーフェンソン・ピエール・モリ『欧州におけるジャーナリズム教育』