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ノーマン・ベイカーと「ベバリッジ・グループ」




ブラウン内閣のスター(個人的に、ね)、デーヴィッド&エドミリバンド兄弟の「追っかけ」をやっているわけだが、『インディペンデント』のある記事に、エド・ミリバンド内閣府担当相の名前があった。


Campbell challenges 'whisperers' to face him [THE INDEPENDENT]


記事は、英自由民主党Liberal Democrat、 Lib Dems)のメンジース・キャンベル党首(Menzies Campbell)が、党内批判の高まり──ブラウン首相による自民党議員の「引き抜き」といった懸案がある中、自民党版「影の内閣」である「Liberal Democrat Frontbench Team」のミニ改造を行ったというもの*1。7月19日にはブレア元首相の議員辞職に伴うセッジフィールドの補欠選挙が控えている。*2
そこでエド・ミリバンドの「シャドーとして」ノーマン・ベイカー議員が抜擢された。

Last night, as part of a mini-reshuffle, Sir Menzies restored to his front bench the campaigning MP Norman Baker. Mr Baker quit as environment spokesman last year to conduct his own investigations into the death of the government scientist David Kelly. He will shadow Ed Miliband, the Secretary of State for the Cabinet Office, Gordon Brown's cabinet "progress chaser".

このノーマン・ベイカー議員に興味を持った。彼は「ケリー事件」の独自調査のために、「フロントベンチ」から降りていた。
→ David Kelly [Wikipedia en]
[ケリー事件関連エントリー] 


今回のベイカー議員の再登用は、第三党の「フロントベンチ・チーム」(影の内閣)とは言え、現職のミリバンド内閣府担当相を睨んでの人選だと思う。

ざっと彼の経歴を参照してみた。


[Norman Baker MP official site]

  

イカー議員はロンドン大学(Royal Holloway, University of London)出身で、

19世紀当時、英国国教徒にのみ進学が許されていたオックスフォード大学とケンブリッジ大学に対して、人種、宗教、政治的信条に関わりなく広く門戸を開くべく、University of London(現UCL)がイングランド三番目の大学として設立された。




ロンドン大学 [ウィキペディア]

というように第三党に相応しい学歴と言える。Our Price Records やワイン店で働いたり、外国語学校で英語を教えたりもしていたそうだ。

そんな経歴もあるのか、ベイカー議員は左派である。しかも確固たる共和主義者──つまり英王室を廃絶してイギリスを君主制から共和制へ移行することを目指しているのだ。

Republicanism in the United Kingdom [Wikipedia en]

At present, none of the three major British political parties have an official policy of republicanism. However, there are individual MPs, usually from the Labour Party, who favour an abolition of the monarchy. These include Tony Benn, who in 1991 introduced a Commonwealth of Britain Bill in Parliament; Roy Hattersley; Leanne Wood (A Plaid Cymru Welsh Assembly Member) and Norman Baker MP (a Liberal Democrat). Further, the Labour Party has its roots deeply in the anti-monarchinst movements of the late 19th Century.


動物愛護/権利運動にも熱心だ。また、ベイカー議員は経済学者ウィリアム・ベバリッジ/William Beveridgeに由来する「ベバリッジ・グループ」(Beveridge Group)のメンバー。ベバリッジは「ゆりかごから墓場まで」で知られる社会福祉政策の提唱者で、「思想的・学問的にフェビアン協会ウェッブ夫妻、経済学者ジョン・メイナード・ケインズに多大な影響を受けた」。

ベバリッジ報告



1942年11月、政府刊行物として発刊された報告書『社会保険および関連サービス』をベバリッジ報告と呼ぶ。社会保障の大前提として「完全雇用の維持」「所得制限なしの児童手当」「包括的な保健サービスの提供」の3つを挙げ、社会保障制度の原則として「均一拠出・均一給付の原則」を提示した。この後イギリスでは、「包括的な保健サービス」としてNHS(国民保健サービス)という、患者負担無料(当時)・税方式の医療保障制度が生まれるなど、政策的な影響は多大であった。

William Beveridge: A Biography

William Beveridge: A Biography


→ フェビアン協会(Fabian Society) [ウィキペディア]

このグループは、革命的ではなくむしろ緩やかな変革を志向(社会改良主義)し、フランク・ポドモアの提案により、古代ローマの将軍クィントゥス・ファビウス・マクシムス(「クンクタトル」(遅らせる人)の愛称を持つ)にちなんで、フェビアン協会と名づけられた。漸進的な社会変革によってマルクス主義に対抗し、暴力革命を抑止する思想・運動をフェビアン思想(フェビアニズム)と呼ぶ。


多くのフェビアン(フェビアン協会のメンバー)が、1900年の労働党の前身となる労働代表委員会結成に参加した。 2つの世界大戦の期間には、第2世代のフェビアンであるR・H・トーニー、G・D・H・コール、ハロルド・ラスキが、社会民主主義思想に大きな影響を与えつづけていた。


ベバレッジ・グループは、こうしたベバレッジの社会民主政策を引き継ぎ、それを21世紀の政治に反映──あるいは「復活」──させることに取り組んでいる。


[The Beveridge Group]

The Beveridge Group exists to promote discussion among Liberal Democrats of how policies in the Social Liberal tradition of Lloyd George, Keynes, Beveridge and their radical Liberal roots, can best be adapted to the needs and challenges of the 21st Century.


ざっと見た限りであるが、著名なマルクス主義政治哲学者を父に持つミリバンド弟──『インディペンデント』曰く「Brown's cabinet "progress chaser"」──にとっては、ベイカー議員は、「競争相手として」好敵手だろう。




ウィリアム・ベバリッジ関連の本は、小峯敦 著の『ベヴァリッジの経済思想―ケインズたちとの交流』、『福祉国家の経済思想―自由と統制の統合』、『福祉の経済思想家たち』の三冊、

ベヴァリッジの経済思想―ケインズたちとの交流

ベヴァリッジの経済思想―ケインズたちとの交流

福祉国家の経済思想―自由と統制の統合

福祉国家の経済思想―自由と統制の統合

福祉の経済思想家たち

福祉の経済思想家たち


ジョゼ・ハリス 著『福祉国家の父 ベヴァリッジ―その生涯と社会福祉政策』と『ウィリアム・ベヴァリッジ その生涯』が手に入りやすい。

福祉国家の父 ベヴァリッジ―その生涯と社会福祉政策

福祉国家の父 ベヴァリッジ―その生涯と社会福祉政策

ウィリアム・ベヴァリッジ その生涯〈上〉

ウィリアム・ベヴァリッジ その生涯〈上〉





[関連エントリー]

*1:-In full: Lib Dem front bench [BBC NEWS]

*2:保守党のキャメロン党首も「シャドー・キャビネット」を改変した。
-Cameron reshuffles shadow team[BBC NEWS]
-In full: Cameron's shadow cabinet [BBC NEWS]