HODGE'S PARROT

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”ボクハ、オンガクカ、電卓カタテニ” クラフトワーク




ドイツのデュッセルドルフ出身のテクノ音楽ユニット、クラフトワークKRAFTWERK(クラフトヴェルク)のDVD『ミニマム-マキシマム/minimau - maximum』に夢中になっている。
ボクハ、ドイツ語盤ヲ、カッタヨ。ドイチュランド、バンザイ!

ミニマム-マキシマム [DVD]

ミニマム-マキシマム [DVD]


そのあまりにも即物的な機械音、まさに工業製品たる特殊な音楽に、胸が熱くなり、感動した。映像も──ライブにもかかわらず──直立不動のスーツを着た四人の男たちの微動だにしない四肢に、眼が離せない。
KRAFTWERK は「発電所」を意味するのだと言う。ドイツのルール地方工業都市を、そのままイメージさせる、有機的組織体──Organisation/オルガニザツィオーンだ。
ダカラ、ホントハ、「クラフトヴェルク」ト独語フウニ呼ビタインダケドネ。
Kraftwerk: Man, Machine and Music


最高の「現代音楽」である。
アウトバーン/AUTOBAHM≫のクールでありながら人懐こいメロディーライン。
ツール・ド・フランスTOUR DE FRANCE≫の汗臭さとは無縁の男性の吐息。
≪モデル/DAS MODEL≫の、まるでピエール・カルダン時代の未来服・宇宙服のファションショーを見ているかのようなエレガントさ。
ヴォコーダーをいろいろな言語で試してみたかっただけなんじゃないかな、と思える≪ナンバーズ/NUMMERN≫。
≪ロボット/DIE ROBOTER≫の、木偶のような「かかし王子」のようなロボットが登場する時代錯誤のカッコよさ。
≪ヨーロッパ特急/TRAN EUROPA EXPRESS≫のノスタルジックなアート・オブ・ノイズ
そして何といっても日本語で歌われ、その歌詞どおりに電卓片手にピコピコと「クラシカルな」電子音が心地良く鳴らされる≪ポケット・カルキュレーター/DENTAKU≫……。
シンキデ、シンセンデ、シンガタノ、オンガク──そう、アヴァンギャルドである。




僕が最初にクラフトワークを知ったのが、そもそも現代音楽を得意とするバラネスク・クァルテット/ Balanescu Quartet の演奏による、弦楽四重奏版だった。『Possessed』の≪モデル/ Model≫を初めて聴いたとき、胸が躍った。クロノス・クァルテットの≪紫のけむり≫以来の衝撃だった──もっとも、原曲のジミ・ヘンドリックスは、未だに聴いていないが。

Possessed

Possessed



しかし「本家の」クラフトワークの魅力は、やはりそのメタリックなエレクトロニクスのトーンにある。ステレオのボリュームをできるだけ上げて、その「単調な」サウンドに包まれていると、不思議な陶酔感が襲ってくる。テクノ系テクノポップや、ましてやジャーマン・ロックとかは全然知らないけれど、シュトックハウゼンルイジ・ノーノの「電子音楽」の面白さと同じように、どこかカタく、ぎこちなく、マジメさ漂う音楽には、とても惹かれるものがある。
しかも彼らの音楽には、確固たるドイツ魂がある。ドイツ人としてのアイデンティティに誇りを持っている。ウィキペディアのドイツ語版には、ラルフ・ヒュッターのインタビューが──何故かそこだけ英語で──引用されている。引用の引用をしてみよう。

Zitate



アウトバーン・ツアー „After the war, German entertainment was destroyed. The German people were robbed of their culture, putting an American head on it. I think we are the first generation born after the war to shake this off, and know where to feel American music and where to feel ourselves. We cannot deny we are from Germany.“ (Ralf Hütter, Interview mit Lester Bangs, 1975)




Wikipedia de

ヒュッターは語る。戦後、ドイツのエンターテイメントは破壊された、文化侵略を受けた──アメリカによってだ。僕たちは、アメリカ文化の影響を振り払いたい。音楽においても、そのフィーリングにおいても。僕たちは、ドイツ出身であることを、絶対に否定できない、と。

Concert Classics

Concert Classics

  • アーティスト:Kraftwerk
  • 発売日: 1999/01/12
  • メディア: CD

概念そのものは、「普遍性」と「特殊性」と「個別性」の三要素をふくむ。限定されつつ自己との自由な同等性を保つのが普遍性であり、普遍的なものが濁りのない自己同等性を保つように限定するのが特殊性であり、普遍性と特殊性の規定が自己へと立ちかえるのが個別性である。
個別性の否定力がうむ自己統一体は、絶対的に規定されたものであると同時に、自己同一の普遍的なものである。




G・W・F・ヘーゲル『論理学』(長谷川宏 訳、作品社) p.347

クラフトワークの音楽には、そのアナクロニズムさゆえの魅力に満ちている。それは、「新本格推理小説の独特の魅力と近いかもしれない。バラネスク・カルテットを経由して発見した「ドイツ音楽」は、素晴らしい体験を与えてくれた。ネクタイ姿の彼らがプロデュースする「無機質な」音楽製品こそが──「人間が描かれていない」と批判された「新本格」と同じように──熱気と興奮に溢れているのである。

ミュージック・ノン・ストップ、ハツデンショモ、ノン・ストップ。

Trans-Europe Express

Trans-Europe Express

  • アーティスト:Kraftwerk
  • 発売日: 1995/09/26
  • メディア: CD



Autobahn 「文化の時代にしては、現代には少しばかり文化論が多すぎると思わないか? 文化を所有していた時代が果たして文化という言葉を知っていたのか、使ったのか、口にしたのか、ぼくは知りたいと思うね。ぼくたちが文化と呼ぶ状態の第一の標識は、素朴、無意識性、すべてを自明なことと感じかつ考える態度だろうとぼくは思う。
ところが、ぼくたちに欠けているのは、まさしくこの素朴なのだ。そして、もしこれについて話してよければ、この欠如が、文化と、きわめて高度な文化とすら少しも違和するものではない幾多の絢爛たる野蛮から、ぼくたちを守っているのだ。つまり、ぼくたちの段階は文明の段階なのだ、──これは疑いもなくきわめて賞讃すべき状態ではある、しかし、再び文化を取戻すためには、ぼくたちはもっともっと野蛮にならねばならないということも、疑いの余地はないだろう。


技術と安楽──それだけで人々は文化を論じているが、彼らは文化は持ってはいないのだ。現代音楽のホモフォニー的旋律的状態は、古い対位法的ポリフォニー的文化に対立するものとしての、音楽の文明的状態だと言ったら、君は反対するかい?




トーマス・マンファウストゥス博士』(円子修平 訳、新潮社)p.63-64



[Website von Kraftwerk]

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